まさと兄妹と、きょん姉さん、アニーは転軸山(てんじくさん)の遊歩道を歩いていた。 アベック風の二人が、楽しそうに語らいながら転軸山の広い遊歩道を電動立ち乗り二輪車・セグウェイに乗っていた。 真由美は、そのセグウェイを見ていた。 「わ〜〜、いいなあ、あれ!」 「乗って見たいのかよ?」 「うん!」 「駄目だよ、ありゃあ高すぎるよ。一日三千円だぞ。」 「そうだね。でも、いつか乗ってみたいなあ〜。」 アニーが、真由美の肩をポンと叩いた。 「セグウェイならあるわよ。貸してあげるわ。」 まさとは驚いた。 「え〜〜っ、ほんとうですかあ?」 「ログハウスの裏に置いてあるわ。取りに来る?」 「えっ、いいんですか?」 「いいわよ。今は誰も使ってないから。当分、使わないわ。」 きょん姉さんも、にこにこして頷(うなず)いていた。 「そうそうそう、誰も使わない。」 真由美は、手をあげて喜んだ。 「わぁ〜〜〜い!」 みんなは、ログハウスに戻った。早速に裏に回った。 アニーが指し示した。 「これよ。」 まさとも真由美も感激した。 「わ〜〜、綺麗なセグウェイだなあ〜。」 「まだ新品なのよ。」 まさとは尋ねた。 「こんなのに乗ってもいいんですか?」 「いいわよ。こういうものは、適当に乗ったほうがいいのよ。」 アニーはキーを差込み、セグウェイのスイッチを入れた。ウィ〜〜ンと唸ってモーターが始動した。アニーは乗ってみせた。バーベキュー場を一回りして戻ってきた。 「どう、簡単でしょう?」 「え〜〜、そんなに簡単なんですか?」 「身体を傾けた方向に進むの。やってみて。」 「前に倒すと、前に進むんですね?」 「そういうこと。そんなにはスピードはでないから大丈夫よ。」 まさとは、恐る恐るセグウェイにまたがった。ハンドルを、少し前に倒した。セグウェイは走り出した。 「わ〜〜〜、走った!」 「その調子、その調子!左に身体を傾けると、左に曲がるわ!」 まさとは、身体を左に傾けた。 「お〜〜〜っ!」 「スピードを落とすときには、身体を起こすの!」 指示通りに、身体を起こした。 「こうですね!?」 セグウェイは止まった。 「それ以上起こすと、バックするわよ。」 「はい。動力を止めるときには、どうするんですか?」 「右の赤いボタンを押すの。」 「こうですね。」 セグウェイのモーター音が止んだ。 まさとは、セグウェイを降りた。 「意外と簡単でした。」 「あなた、運動神経がいいわ。何かやってるの?」 真由美が得意げに答えた。 「お兄ちゃんは、運動選手なんです。走ったら一番早くて、いつもマラソン大会で優勝するんです。サッカーも上手なんです。それから水泳も上手なんです。」 真由美は、まるで自分のことを誇るように喋っていた。 「分かったわ、真由美ちゃん。すごい、お兄ちゃんね!」 「とっても凄いんです!」 アニーも姉さんも、真由美を見て微笑んでいた。 「そっちのかっこいい、お姉さんよりも早いと思います!」 まさとが真由美ちゃんを睨んだ。 「おまえ、余計なこと言うなって!」 真由美は、きょん姉さんを見ていた。 「わたしよりも…、そうね、若いし男だからね。」 まさとが、きょん姉さんに質問した。 「百メートル、どのくらいで走られるんですか?」 「高校の頃は、十一秒台だったかな?」 「それは凄い!」 「あなたは?」 「僕は長距離が専門なので、そんなに早くは走れません。十二秒台です。」 「ってことは、短距離では私の勝ちってことか?」 「そうですね。」 「でも、今は遅いわよ。走ってないし。きっと負けるわ。こういうのできる?」 姉さんは走り出した。そして斜め背面飛びでジャンプすると、斜め宙返りをして、そして短距離の『位置について〜!』の姿勢で着地した。 みんなは、びっくりした。一番驚いたのは、真由美だった。 「ぅわ〜〜、すご〜〜い!まるで忍者みた〜〜い!」 姉さんは、左手を肘から曲げて突き出し、右手は拳を握り腰に当てて、紅流(くれないりゅう)の『座り飛流の構え』になっていた。 「紅流(くれないりゅう)、斜め宙返り!」 みんなは、心底の邪気の無い大いなる拍手を姉さんに送った。
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