高野山の拡声器からアナウンスが流れていた。 『猿人間キーキーは、無事に確保されました。高野山に平安が戻ってきました。皆さん安心して生活してください。』 「お兄ちゃん、猿人間キーキーがどうしたの?」 「捕まったんだよ。」 「それは良かったわ〜〜。」 「変な人とは話すなよ。」 「変な人って?」 「挨拶しても、黙ってる人とか。ありがとうも言えない人とか。」 「うん、分かった!」 「キーキーは、すぐに噛みつくからな。」 「わぁ〜〜、怖い!」 まさとは、パソコンでトマトの新しい栽培法のページを見ていた。 「真由美、模型ボブスレーでも見に行くか?」 「わ〜〜、行こう、行こう!」 二人は、母親に告げると、仲良く手を繋いで家を出た。 「お兄ちゃん。」 「なんだよ?」 「ログハウスのかっこいい〜ぃ、お姉さんに御礼を言いたいの。」 「ああいいよ。どこのハウスだい?」 「いちばん手前のハウス。」 「とっても早かったの、びゅ〜〜って飛んできたのよ。そして、私を起こして、びゅ〜〜〜って帰ったの。」 「そうか、それは見てみたかったなあ〜。」 「まるで、忍者みたいに早かったわ。」 転軸山森林公園には、大人六名がゆっくり泊まれるログハウスが六棟あった。 二人は、最初のログハウスの前で止まった。 「ここだな?」 「そうよ。」 まさとが、ドアベルを叩いた。 奥の方から、機械の音声みたいな言葉が返ってきた。 「は〜〜い、どなたですかあ?」 真由美が返事した。 「昨日、助けてもらった者です。」 ドアが静かに開いた。ロボットが突っ立っていた。 「何の御用ですか?」 「昨日は、どうもありがとうございました。」 福之助は真由美のことを知っていた。 「あ〜〜、昨夜のトマト売りの、お嬢ちゃん!」 「はい、そうです。お姉さんに、お礼に来ました。」 「今、お姉さんは居ないんですよ。わたしが伝えておきましょう。」 「そうですか、よろしく伝えておいてください。」 「分かりました!」 真由美は、ぺこりと頭を下げた。まさとも「よろしくおねがいします!」と言って頭を下げた。 二人は、遊歩道に丁寧に植えてある花を眺めながら、転軸山(てんじくさん)のスキー場の方に向かった。 転軸山公園前のバス停で、十数人のハイキング客が南海りんかんバスから降りていた。 「日曜日だから、ハイキング客が多いなあ。」 「みんな、たのしそうねえ。」 千四メートルの摩尼山、千九メートルの楊柳山、その中で一番低い九百十五メートルの天軸山(てんじくさん)は、高野三山の最も気楽なハイキングコースになっていた。 真由美が叫んだ。 「あっ、昨日のかっこいい〜ぃ、お姉さんだわ!」 きょん姉さんも、真由美ちゃんに気づいた。手を振った。 姉さんは小走りでやってきた。アニーも小走りで姉さんを追ってやってきた。 姉さんはジーンズをはいている真由美の脚を見た。 「脚は大丈夫なの?」 「はい、もう大丈夫です。」 まさとが深く頭を下げた。 「昨日は、妹のために、どうもありがとうございました!」 「あっ、お兄さんなの?」 真由美が返事をした。 「そうでぇ〜す!」 まさとが改めて答えた。 「まさとと言います。」 「わたしの名前は、伊集院真由美で〜〜す!」 「いい名前ねえ。わたしは、葛城今日子で〜〜す。」 「いい名前ですねえ〜〜。」 まさとが真由美の頭に手を当てた。 「おまえ、真似すんなって!」 「いいのよ、いいのよ。とっても可愛いわ。」 アニーが、ひょいと出てきた。 「わたしは、アニーです。よろしくね!」 「アニーという名前なの?かっこいい〜〜!」 真由美ちゃんは、アニーをしげしげと眺めた。 「昨日の人もかっこよかったけど、今日の人もかっこいいいわ〜〜!」 アニーが尋ねた。 「昨日の人って?」 「ショーケンという人。かっこいいんだから。」 「そぉお、そんなにかっこよかったの?」 「まるで、スターみたいだったわ!」 話を断ち切るように、きょん姉さんが質問した。 「これから、どこに行くの?」 「模型ボブスレーを見に行くんです。」 「模型ボブスレー、それ面白いの?」 「とっても面白いんです。」 みんなの前を、高野山の道案内ロボットが通り過ぎて行った。
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