江来(えらい)博士の妻の優子が、庭の空に向かって指差した。 「ココロ、よく上を見てなさい!」 猿人間キーキーの嫌いな柴犬のココロが、尻尾(しっぽ)を振って、庭の芝生に通じる大きな窓の近くで、紋次郎を見ていた。 芝生で跳ねていた小鳥たちが、慌てて飛び去った。ココロが上空を睨んで吠え出した。 「あなた、ロケットが来たわ!」 「おっ、そうか!」 上空から、鋭い噴射音が聞こえてきた。 ロボットたちを残して、人間たちは急いで庭に出た。 子供の背丈(せたけ)ほどのロケットが、庭の中央に機体をコントロールさせながら軟着陸した。 博士は手を叩いて喜んだ。 「お見事、お見事!さすが、源内先生のロケットだ!」 ロケットは、中央のシャッターを開け、荷物をポンッと吐き出すと、再び噴射をはじめた。大きな発射音を残して上空に戻って行った。 博士は、それを科学者の目で見ていた。 「お〜〜〜〜〜、ワンダフル!」 みんなは駆け寄った。 博士が荷物を拾い上げた。 「よ〜〜し、これで紋次郎くんが直るぞ!」 みんなは戻ってきた。 「心根(こころね)くん、早速つけてやってくれ。」 「はい!」 心根の優しい手先の器用な女性にもてもての心根(こころね)くんは、得意のキラースマイルで少女漫画のように瞳からキラキラ星を放ちながら、早速作業に取り掛かった。 「紋次郎くん、俯(うつむ)けになってくんない?」 紋次郎は目を見開いた。ちょっと悲しい表情になっていた。 「ちょっと待ってください!」 「どうしたの?」 「わたし、お金が無いんです。お金払えません!」 江来(えらい)博士が出てきた。 「いいんだよ、紋次郎君。お金は、要らないと思ってたんだけど、君の所長が払ってくれるって。」 「所長?」 「君、思いやりヒューマン研究所のロボットだろう?」 「はい。」 「そこの所長が、今電話で話してた、浦賀源内さんなんだよ。」 「え〜〜〜、そうだったんですか!」 「所長に手間賃は要らないって言っておいたよ。彼は長年の親友だから。」 「え〜〜、そうなんですか。」 「わたしも、あんたが気に入ってるから無料で直してあげるよ。」 紋次郎は深く深く腰の間接がきしむほどに、深く頭を下げた。 「この御恩は、一生忘れません!」 腰の間接が、ギギっと鳴った。 「君は実に人間らしいなあ。ますます気に入った!」 紋次郎は、なかなか身体を起こそうとはしなかった。 「そんな姿勢じゃあ、腰の間接が痛むから止めなさい!」 紋次郎は「はい!」と言って身体を起こした。それから、紋次郎は黙って俯(うつぶ)せになった。 荷物の中には、パーツが二つ入っていた。 技術者の心根くんは、作業が早かった。 「はい、左足交換完了!」 続いて、紋次郎の右足の踵の同じところの部品の交換をはじめた。 紋次郎はびっくりした。 「そっちはいいんですよ。」 「念のためだよ。金属が疲労しているからね。」 「ありがとうございます。」 江来(えらい)博士は、観察するように鋭い目線で交換場所を見ていた。 「紋次郎くん、社長に頼まれたんだよ。右足も交換してくれって。」 「そうだったんですか。ありがとうございます。」 「それに、今回送ってもらったものは、強いらしいよ。ちょっとやそっとでは折れないそうだよ。」 「ほんとうにありがとうございます!」 作業は終わった。 「よし終わった!立っていいよ。」 紋次郎は静かに立ち上がった。思わず叫んだ。 「わ〜〜〜!」 歩き出した。もとのように歩けた。 「わ〜〜〜、歩ける!」 博士が促した。 「庭に出て走ってごらん。」 紋次郎は庭に出た。そして走り出した。 「わ〜〜〜、走れる!」 庭を、ぐるぐりぐるぐると走り出した。柴犬のココロが尻尾(しっぽ)を振って、ワンワンと吼えながら庭を走り回りだした。まるで、人間のココロを表現するように跳ねていた。
|
|