高野山の拡声器からアナウンスが流れた。 『猿人間キーキーは、無事に確保されました。高野山に平安が戻ってきました。皆さん安心して生活してください。』 ロボットの紋次郎は、風来坊仙人と一緒に、たまご型の家に向かっていた。 仙人は微笑んだ。 「あ〜〜、良かった!」 「猿人間キーキーのことですか?」 「ああ、そうだよ。」 「ほんとうに嫌いなんですね。」 「誰も好きなやつなんていなんいよ。ああ〜〜〜気持ち悪い!」 「そうなんですか…」 「もう、その話題、止め!」 たまご型の家は、瞑想していたところから、約二百メートルのところにあった。 「ここが、我が家だよ。」 たまご型の家には、鏡の国のアリスのようにハンプティ・ダンプティの顔が描かれてあった。目玉が窓になっていた。 家の周りには低木の垣根があり、芝生の庭があった。 ロボットが出てきた。 「お帰りなさいませ。」 ロボットは、家に似合った、人の背丈ほどの木のメルヘンチックな片開きの門を開けた。 「何もなかったかな?」 「はい!」 「仲間のロボットを連れてきたぞ。」 「後ろの方ですか?」 「紋次郎くんだ。」 紋次郎は頭を下げて挨拶した。 「はじめまして、紋次郎と言います。よろしくおねがいします。」 「わたしは、慈悲丸(じひまる)と言います。よろしく。」 慈悲丸(じひまる)も、ぺこりと頭を下げた。背格好は、紋次郎と同じていどだった。 松葉杖を見た後、紋次郎の足を見ていた。 「足は、どうされたんですか?」 「転んだんですよ。」 仙人が慈悲丸(じひまる)の足を見た。 「ひょっとしたら、おまえの部品で間に合うんじゃないか?」 「そうですね…」 「部品あったかな?紋次郎くん、足のどこなの?」 紋次郎は直ぐに答えた。 「踵(かかと)の部分です。」 みんなは、家の中に入って行った。 女の人が出てきた。 「心根(こころね)くんはいる?」 「はい。納屋(なや)にいます。」 「呼んできて。」 「はい。」 その女性は出て行った。すぐに、彼と一緒に戻ってきた。 紋次郎に紹介した。 「技術者の心根(こころね)くんだよ。こっちは、私の妻の優子(ゆうこ)。」 紋次郎は、頭を下げて挨拶した。 「はじめまして。紋次郎ともうします。」 二人もぺこりと頭を下げて挨拶した。 心根くんが、紋次郎の松葉杖を見ながら尋ねた。 「どうしたの、その足?」 仙人が答えた。 「転んで傷めたらしいんだよ。ちょっと診てやってくんない。」 「分かりました。」 彼は、ダイニングルームから椅子を持ってきた。 「ここに座って。」 紋次郎は「ありがとうございます。」と言って座った。 「どれどれ…、左足の踵(かかと)だね。」 「はい、そうです。」 彼は、ロボットの慈悲丸に命じた。 「慈悲丸、彼の前に上向きに寝てくんない。」 すぐに従った。 「こうですか?」 「ああ、いいよ。紋次郎くん、彼の胸に左足を乗せて。」 紋次郎は躊躇(ちゅうちょ)した。 「いいんですか?」 「ああいいよ。」 慈悲丸も「いいですよ。」と下から言った。 紋次郎は静かに乗せた。 「慈悲丸、下から照らしてくれ。」 慈悲丸の目が光った。覗き込んだ。 「あ〜〜〜、踵(かかと)の軸が折れてるなあ〜。」 仙人が尋ねた。 「部品あるかなあ?」 「残念ながらありません。この部分は特注なんです。」 「そうか、彼のところにしかないのか…」 「博士(はかせ)、どうしましょう?」 「しょうがない、浦賀源内先生に頼むか。電話してみよう。」 彼は携帯電話を取り出した。 『もしもし、源内さん、わたし高野山の江来(えらい)です。』 話は続いた。 『ああ、それは有難い!よろしくお願いします。』 彼は電話を切った。 「すぐ送るって、ロケットで。」 紋次郎は驚いた。 「ロケット!?」 「十分くらいで届くよ。」 「え〜〜〜、そんなに早く!」 みんなは平然としていた。 「来るまで、お茶でも飲んで待っていようか。」 「そうだ、あなた。カナちゃんが無花果(いちじく)大福を売ってたので買ってきました。」 「お〜〜〜、それはいい。あの子は偉いなあ〜。」
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