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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第181回   心を映す鏡
「女にもてようとすると、女は逃げていくだろう。それと同じだよ。」
「そうなんですか。」
「女なんて眼中にないという奴には、不思議と女が寄ってくる。」
「そうなんですか。」
「幸せも、それと同じだよ。欲しれば欲するほど遠くに逃げていく。」
「つまりね、浅(あさ)ましいのは駄目なんだよ。そういうのは嫌われる。たとえ、お金があっても嫌われる。」
「そうなんですか?」
「だから、利口な人間は、芝居をするんだよ。」
「芝居ですか?」
「ああ、芝居が上手いんだよ。不幸なふりをしたり、悪ぶったりするんだよ。」
「なるほど。」
「鳥が必死でさえずるように、フラミンゴが必死で踊るようにね。」
「なるほど。」
「芝居も、必死だと芝居ではなくなる。だから相手に通じるんだよ。」
「芝居をするんですか。」
「その芝居ってのは心でするんだよ。心が大切なんだよ。」
「じゃあ、芝居ができないと幸せにはなれないんですね?」
「そういうことだな。だが、まるっきし、芝居と嘘とは違うからな。」
「そうなんですか?」
「人間の心は、真実なんてものはなくって、全てが芝居なんだよ。」
「全てが芝居?」
「ああ、全てが芝居。」
「全てが芝居…」
「人間は社会的動物である。」
「はい。」
「よって、心も、その時代その社会に合わせて芝居をしているだけなんだよ。」
「そうなんですか?」
「日本の常識は、世界の不常識って言うだろう。」
「はい。」
「日本に住んでる者は、日本の生活に合わせて芝居をしている。アメリカに住んでいる者は、アメリカに合わせて芝居をしている。江戸時代の人間は、江戸時代の生活に合わせて芝居をしている。」
「そうなんですか。」
「ただ、自分の芝居に誰も気がつかない。」
「なるほど。だったら、心には真実はないんですね」
「そういうことだな。」
「心には真実はない…」
「環境が作り出した副産物だよ。」
「そうなんですか。」
「真実は、物理現象だけ。物理法則だけ。」
「う〜〜ん、分からないなあ…」
「おまえさんも、その物理法則で動いているだけだからな。だから分からないんだよ。」
「つまり、心がないから分からない?」
「そういうことだ。」
「心は芝居ってことですか?」
「そういうことだ。」
「芝居から生まれたものってことですか?」
「そういうことだ。社会が芝居を強要し、芝居が心を作る。つまり、生まれながらの真実の心なんてものはないんだよ。」
「生まれながらの真実の心はない…」
「あるのは、生まれながらの生きる本能のみ。」
「生きる本能のみ…」
駐車場の大通りの方から、二人の警官がどたどたと小走りでやってきた。
「情緒のないこせこせした猿が来ませんでしたか?」
仙人が答えた。
「情緒のないこせこせした猿?本物の猿かね?」
「姿は人間、心は猿の猿人間です。」
「猿人間キーキーのことかね?」
「そうです。」
「誰も通らなかったよ。」
「ありがとうございます!」
警官たちは、もと来た道に帰っていった。仙人は残念そうに空を見上げた。
「今日は止めだ。」
紋次郎は質問しした。
「どうしたんですか?」
「気分が乗らなくなった。」
仙人は、背伸びをするようにして言った。
「あ〜〜〜ああ。猿人間キーキーは大の嫌いなんだよ。今日は不吉だ、止め止め!」
紋次郎は黙っていた。
「しょうがない、帰るか。」
仙人は指差した。
「あそこに見えるだろう。あの卵みたいな家、ハンプティ・ダンプティみたいな。」
「ハンプティ・ダンプティ…、ああ、鏡の国のアリスのハンプティ・ダンプティですね?」
「そうそう、おまえさん教養があるんだねえ。」
「そのくらいは知ってます。常識ですよ。」
「最近は情緒のない常識のないやつが多いんだよ。おまえさんも来るかい、面白いよ。」
「行ってもいいんですか、ロボットの私でも?」
「いいよ、いいよ。おまえさん、人間らしくて気に入ったよ。」
「心を映す鏡を見せてやるよ。」
「心を映す鏡?」
「面白いよ〜。」



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