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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第180回   瞑想の風来坊仙人
ロボットの紋次郎は、川に沿って歩いていた。そして、木の上のカラスを見ていた。
「カラスになって、空を飛んでみたいなあ…、どんなふうに見えるんだろうなあ…」
脇の草むらから大きな黒い猫が出てきた。猫は紋次郎の姿を見ると、慌てて、おっとととととと草むらに引っ込んだ。
道端で中年風の男が、うずくまっていた。お腹を押さえていた。
「どうしたんですか?」
男は紋次郎を見ると、言葉を返した。
「ちょっと、腹が痛いんだよ。ここいらに便所はありませんか?」
「便所だったら、すぐそこの駐車場にあります。」
「ああ、そう。」
男は立ち上がった。よろけた。紋次郎が慌てて、男の肩を松葉杖で押さえた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。」
「衛生面をしっかりしないと、お腹を壊しますよ。」
「ああ、そうだな…」
「歯が悪いと、お腹も悪くなります。」
「ああ、そう?」
「健全なる自己管理に、健全なる身体です。」
「お〜〜、いいこと言うじゃない!やっぱり違うなあ〜、高野山のロボットは。」
「お気をつけて。」
「心がしっかりしてるわ!さすが、お坊さんロボット!」
「わたしは、お坊さんロボットではありません。」
「ああ、そうなの〜。じゃあ、変なロボット!」
男は、そそくさと去って行った。駐車場に向かって。
紋次郎はぼやいた。
「ありがとう、とも言わないで。変なロボットだなんて、失礼な人だなあ〜。」
大きな椎(しい)の木の下で、お坊さんみたいな人が座布団を敷いて、あぐらをかいて座っていた。後方に携帯のポットが置いてあった。ひまわりの絵がプリントしてあった。
「お主、どこに行く?その足で?」
「お寺を探しているんです。」
「探して、どうする?」
「教えてもらいたいことがあるんです。」
「ほ〜〜〜?何を教えてもらいたい?」
「人の心を…」
「人の心…」
「人の心が知りたいのです。人間を知りたいのです。」」
「人間を知りたい?」
「人間にはロボットにはない心があります。その心を知りたいのです。」
「知りたい?」
「はい。」
「人間の心を知りたい…」
「はい。」
「知ってどうする?」
「人間を理解できます。」
「理解してどうする?」
「人間を助けたいのです。」
「人間を助けたい?人間の心を助けたいのか?」
「はい。心で苦しんでる人を救ってあげたいのです。」
「ロボットが人間の心を救う…、面白い。」
「面白いって、どういうことですか?」
「うん。おまえみたいなロボットは初めてだよ。それが面白い。」
「そうですか。」
「苦しんでる人間を知ってるのか?」
「はい。人々が毎日、心に苦しんで死んでいます。」
「自殺のことか?」
「はい。」
「ロボットは、自殺なんかしないからなあ。」
「はい。」
「じゃあ、どうしてロボットは自殺しないんだ?」
「心がないからです。」
「なるほど。」
「じゃあ、心があると、自殺するってことか?」
「はい、そうだと思います。自殺は、非論理的です。理解できません。」
「自殺は、非論理的か、なるほどな。」
「違いますか?」
「おもしろい!気に入った!」
「えっ?」
男は紋次郎の脚を見た。
「その脚でどこに行く?」
「お寺です。」
「お寺は、この先にはないよ。」
「おじさんは、ここで何をしてるんですか?」
「瞑想(めいそう)をしている。」
「めいそう?」
「大いなる宇宙と交信している。と言えば理解できるかな?」
「UFOですか?」
「そういう具体的なものじゃないよ。目には見えないものだよ。」
「それは、何か役に立つのですか?」
「そうだなあ、日常の些細なことに動じなくなるな。そして大きな幸せな気分になれる。」
「心に苦しまなくなるんですか!?」
「なるだろうな。」
「それは素晴らしい!是非教えてください!」
「ま、座れ。」
紋次郎は、男の右側に正座して座ろうとした。
「おお、そっちは弁慶の座るとこじゃあ。」
「べんけい?」
「猫だよ。」
「ああ、さっきの大きな黒い猫ですね?」
「そう、その猫だよ。いつも右側のここに座るんだよ。」
紋次郎は、男の左側に座った。
「その猫も瞑想するんですか?」
「猫は瞑想なんかしないよ。ごろんと寝るだけだよ。」
「お友達なんですか?」
「うちの猫みたいなもんだな。」
「いいですねえ、平和で。」
「お主、名前は何と言う?」
「紋次郎です。」
「ほ〜〜、木枯し紋次郎の、紋次郎か?」
「そうです。」
「木枯し紋次郎のファンなのか?」
「はい。」
「どうりで、変なことを聞くんだな。木枯し紋次郎か…、なるどお。」
「おじさんも、木枯し紋次郎のファンですか?」
「昔はな、よく見たよ。あれは傑作だよ。みんな楊枝(ようじ)を咥(くわ)えて真似してたな〜。」
「そうなんですか〜!」
「若い頃は、ああいう非日常的な生き方に憧れるんだよな〜。」
「おじさんもですか?」
「ああ、真似はしなかったけど、よく観てたよ。」
「そんなに有名だったんですか〜?」
「みんな見てたよ。西部劇みたいだったから、外国人も見てたよ。」
「わたしも、その時代にいたかったなあ〜。おじさんの名前は?」
「風来坊仙人。」
「ふうらいぼうせんいん。」
風来坊仙人は、目を閉じると、静かに話し出した。
「人間が、そんなに知りたいのか?」
「はい。」
「人間の幸せというものは、不思議なことに、幸せを望むと、幸せは逃げていく。幸せを望めば望むほど逃げていく。幸せなんか望まないと、幸せが寄ってくる。磁石みたいなものだ。」
「磁石ですか?」
「そう。」
「だったら、逆を考えればいいんですね。つまり、幸せを望むんだったら、その逆を。」
「それがな、凡人にはできないんだよ。」
「どうしてですか?」
「口先だけではできるよ。だが、心の底では幸せを願ってる。」
「そうなんですか?」
「ああ、凡人とはそいうもんだよ。」
「口先だけでは駄目なんですね?」
「そういうことだな。」
「人間の心って、複雑なんですねえ。」
初秋の空は、悲しいくらいに澄んでいた。



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