姉さんは、自動車(クルマ)の中から福之助の様子を見ていた。 福之助が戻って来た。ドアを開け、静かに乗り込んだ。 「誰かと話してたけど、何かあったのかい?」 「夏の花火大会で、自動販売機の前で逢った人です。」 「ああ、そうなの。ふ〜〜ん。」 「行きましょう。」 「ああ。」 四輪操舵車・サイドワインダーは、滑るように路肩から、やや斜め後ろ方向にガラガラガラと言いながら離れると、獣のように素早く走り出した。 「このあたりは、精進料理を食べてるせいか、メタ坊はいないねえ。」 「メタボですか。」 「デブのメタ坊。」 「そうですね。」 「真っ直ぐでいいの?」 「三番目の信号で、左折してください。」 「三番目の信号ね。」 信号を左に曲がると、参道が左側に平行に走っていた。その奥に、お墓が沢山あった。 「お墓が多いんだねえ。」 「奥の院です。戦国大名の六割以上の墓があるそうです。」 「なんだか、空気が違うねえ。」 「結界が張られていますから。」 「なんだい、けっかいって?」 「わたしも、よく分からないんです。」 「分かんない言葉を使うなよ。」 「はい。すみません。」 うっそうとした墓地を過ぎると、公園のような墓地になっていた。 「ありゃ〜〜。ロケット型お墓だ〜!」 「新明和工業って書いてありました。」 「ロケットの会社の社長かな?」 「そうかも知れませんねえ。」 「ありゃ〜。奈良の大仏みたいなのもあるよ。」 「お墓じゃないみたいですねえ。」 「奈良の大仏、立ち上がってバンバンジー〜だな〜!」 「何ですか、それ?」 「漫画。」 「そんな漫画、あったんですか?」 「知らないの?」 「はい。」 「ありゃ〜、こんどはピラミッドだ。」 「なんでもありですね。」 「コーヒーカップもあるよ。こりゃあ、お墓じゃなくって、会社の宣伝塔だな。」 「人間の皆さんは、極楽に行きたいんですね。」 「極楽ねえ…」 「姉さんも行きたいんですか?」 「えっ、極楽?そんなのあんのかねえ?」 「姉さんも、たまには考えたほうがいいですよ。」 「何を?」 「死んでからのこと。」 「死んでからのことは、死んでから考えればいいんだよ。」 「なるほどね。」 「こりゃあ、お墓マニアが喜びそうな場所だな。」 「次の役場の前の交差点を右です。」 「オッケ〜!」 役場を右に入ると、民家が多くなり、普通の景色になってきた。針葉樹よりも広葉樹が多くあった。 「このまま行くと、転軸山森林公園(てんじくさんしんりんこうえん)です。」 転軸山(てんじくさん)森林公園には、キャンプ場、天体観測場、イベント広場、アジサイ園、遊歩道があった。 「あの、ピンクの花はなあに?」 「コスモスです。」 普段は、あまり花を見ない姉さんであった。 「バーベキューやってるよ。おいしそうだなあ。」 「お腹が空いてきたんじゃないですか?」 「そうだねえ〜。」 「あの人たち、陽気なアメリカ人っぽいですね〜。」 「そうかい?」 「たぶんね。」 「美しい緑、豊かな自然と柿の葉寿司。いいねえ〜。」 「柿の葉寿司?」 「さっき、看板に書いてあったよ。」 「相変わらず、食べ物には目が早いんですね。」 道から見える丘には、ススキの穂も涼(すず)やかな風に揺れていた。 「ここは、すっかり、秋の景色だねえ。」 「そうですねえ。人間村まで、もう少しです。」 「いよいよ、龍次達のニート革命軍の村だな!」 「はい。」
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