きょん姉さんとアニーが、大通りに向かって歩いていると、高野山内の拡声器からアナウンスが流れた。 < 暴走車進入! 暴走車進入! 暴走車進入! > 「暴走車進入?」 「暴走車が高野山に入って来たんだわ。」 暴走車のガソリンの爆発音が聞こえてきた。 姉さんは少しうろたえた。 「ガソリン猿人だわ!」 鋭い飛行音が通り過ぎていった。 「何、今の音?」 「ミサイルかな?」 「ミサイル!?」 「行ってみましょう!」 二人は大道りに向かって駆け出した。 大通りに出ると、五百メートルほど先で何かが起きていた。 高野山警察のパトカーが通り過ぎていった。二人は、人通りの多くなった歩道を現場に向かって急いだ。 数羽のカラスが上空で、聞きなれない奇妙な鳴き声で騒いでいた。 野次馬と逆行するように、無表情な表情の男が急ぎ足で歩いていた。その男は避けようとしないので、姉さんは慌てて身体を開いて避けた。 「おっと!」 男は黙って無表情のまま去っていった。二人は立ち止まった。 アニーも、その男を見ていた。 「変な人ねえ。」 「あっ!」 「どうしたんですか?」 歩道に折りたたまれた紙が落ちていた。姉さんは拾い上げた。 「これ、今の人が落としたのかしら?」 「何なんですか?」 姉さんは紙を広げた。詩のようなものが書いてあった。 「詩かしら?」 アニーに見せた。 「そうですねえ。」 野次馬が行進していたので、二人は再び野次馬と同じ方向に歩き出した。 「今の人、心が無いというか、心を閉ざしていたわ。」 「えっ、今通り過ぎて行った人ですか?」 「はい。」 「そんなこと分かるんですか?」 「はい、分かるんです。」 アニーは振り返った。 「小さい頃から、人の心のなかが見えるんです。」 「ふ〜〜ん、不思議ですねえ。」 「じゃあ、犯罪者なんかも一目で分かるんですか?」 「はい、分かります。」 現場にたどり着くと、大勢の人々が踊っていた。姉さんは、びっくりした。 「何かしら?」 アニーは冷静だった。
イカさん 行かさん 怒ったら〜 どこにも行かさんでぇ〜 行さんでぇ〜〜 ♪
暴走車の屋根には、大きなイカが張り付いていた。そこから奇妙な音楽は流れていた。 アニーは指差した。 「あれが飛んでいたんだわ。」 イカの後方に、ロケット噴射の黒いノズルが見えていた。 「イカのミサイルだったんんですね?」 「そうですね。噂には聞いていたんですけど、初めて見ました。 「高野山は凄いのを持ってるなあ〜。」 警察官が出てきた。 「皆さん、下がってください。」 周りの人々が下がったので、二人も下がった。踊りは終わった。 姉さんは、さっきの紙を再び開いて見た。
ブルーの空 はじける絶望 僕らには これしかなく ただ真っ只中に突っ走るしかなく 闇雲に ひた走るしかなく 希望のない明日を ぶっ飛ばしに行くしかなく 僕の心は どこにあるのだろう ここにはなく ここには絶望しかなく ただ ここには乾いた涙しかなく 泣くこともできない僕しかなく 闇雲に叫び 闇に向かって走る 僕しかなく! メリーゴーランド!
「わたしたち、いったいどこまで行くんでしょう?」 「えっ?」 姉さんは、なぜか寂しい目で遠くを見ていた。 「人々は、いったいどこまで行くんでしょう?どこに行こうとしているでしょう?」 姉さんの、いきなりの哲学的な問いに、アニーは答えが出なかった。
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