時は容赦なく前に向かっていた。そこには今だけがあり、過去はすでに無かった。過去の光景はもう無くなっていて、人々の心のなかに記憶されているだけだった。前進する今が、人々に体当たりしていた。この体当たりを、楽と感じるか苦と感じるかが、人々それぞれに違っていた。なんと不思議なことだろう。 ヨコタンとアキラは、巨大な根本大塔(こんぽんだいとう)の前に突っ立っていた。 アキラは両手を天にあげた。 「お〜〜〜、奈良の大仏、立ち上がってバンバンジー!」 隣には、クールなクリスタル・ヨコタンがいた。 「何ですか、それ?」 「奈良の大仏、立ち上がってバンバンジーのこと?」 「はい。」 「これはねえ、バンバンジー仮面のセリフ。知らないの?」 「バンバンジー仮面?」 「昔はやったアニメだよ。知ってるでしょう?」 「いいえ。」 「おっかしいなあ?」 「どんなアニメなんですか?」 「バンバンジーを食べると、超大きくなって悪い奴をやっつけるんだよ。踏み潰して。」 「やっぱり知りませんねえ。ほんとうに流行ってたんですか?」 「バンバンジー煎餅(せんべい)とかあったじゃあん!」 「バンバンジー煎餅(せんべい)?」 「そうなの?あ〜〜、アニメなんか見なかったんでしょう〜〜、いいとこの頭のいい御嬢様だったから〜。ピンポ〜〜ン♪」 「ときどきは見てましたよ。でも、それは知らないなあ。」 「おっかしいなあ〜?日本だよねえ?」 「日本ですよ。京都ですけど。小学校三年までは、横浜にいましたけど。」 「え〜〜、そうなの?横浜のどこなの?」 「緑区です。」 「じゃあ、それからは京都なんだあ。」 「そうです。」 「おっかしなあ、じゃあ京都では映ってなかったのかなあ?」 「そうかも知れませんね。」 「うん、そういうことかもね。ピンポ〜〜ン♪」 ヨコタンは腕時計を見た。 「あっ、もうすぐ八時半だわ。もう出ましょう。」 二人は、大門に近い大通りの門から出た。 門を出ると、ミ〜〜ンミンミンと蝉の声が響いていた。アキラは驚いて近くの大きな木を見た。 「なんだ、今頃?」 「辺ですねえ。」 ヨコタンも周りの木を見た。 「あっ、あれじゃない?」 「あ〜〜、あれだ!」 「あれ、おもちゃです。」 「おもちゃ?」 「蝉のおもちゃです。」 「ふ〜〜〜ん、よくできtてるなあ。」 ウゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜! 突然、大門から警報が鳴り響いた。 「なんだ!?」 「何かしら?」 暴走車進入! 暴走車進入! 暴走車進入! 大通りを、物凄い勢いと爆音で暴走車が通り過ぎて行った。 「なあんだ、猿人間の暴走かぁ。」 大門の屋根から、イカ・ミサイルが発射された。 「なんだ!?」 「イカ・ミサイルです。」 「いかみさいる?」 ミサイルは瞬く間に暴走車に追いつき、暴走車の屋根にへばりついた。警告の音声が流れた。 『すぐに止まりなさい。五秒以内に従わない場合には、前方を塞ぎます。』 ガソリン猿人の暴走車は止まらなかった。 イカ・ミサイルから、黒い液体が暴走車のフロントガラスにふりかけられた。 暴走車は視界を失って、ガードレールに車体をこすりつけながら止まった。 高野山警察のパトカーがやってきた。近くにいた人々が集まってきた。 イカ・ミサイルから、イカさんの行かさん音頭が鳴り出した。
イカさん 行かさん 怒ったら〜 どこにも行かさんでぇ〜 行かさんでぇ〜〜 ♪
近くの住民が踊り出した。それは、いつもの光景だった。
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