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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第177回   大海のクジラ 井の中を知らず
「つまり、歩(あゆみ)ちゃんは、頭が良すぎるんだよ。」
歩(あゆみ)の返事はなかった。
「誰も教えないことを、得にならない大きなことを、自分ひとりで勝手に考える。」
「つまり、先回りして考えちゃうんだね。」
「先回り…」
「先回りして、理屈だけで考えてしまう。」
「……」
「人生はね、人の心でしょう。理屈では答えは出ないんですよ。若いときは、とかく理屈だけで考える傾向があるんですよ。」
「理屈だけで、考える?」
「そう、理屈だけでね。人間は、理屈で生きているわけじゃあないでしょう。心で生きている。」
「心で…」
「そう、心でね。心は、理屈じゃないんですよ。これはね、簡単すぎて見えないんですよ。」
「……」
「灯台元暗しって言うでしょう。近かったり簡単すぎたりするものは見えなくなるんですよ。」
「……」
「それにねえ、大きく考えると小さなものが見えなくなってくるんですよ。小さな幸せとかね。」
「小さな幸せ…」
「そういうのを、大海の鯨、井の中を知らずって言うんですよ。」
歩(あゆみ)の母親が、その言葉を復唱した。
「大海の鯨、井の中を知らず…?」
ショーケンも思わず呟いた。
「大海の鯨、井の中を知らず…、なんだいそりゃあ?」
「わたしが作った格言なんですけどね。大きく考え過ぎると、小さなものが見えなくなるという意味です。」
「なんだ、そのままじゃん。それにしても面白いなあ〜、さすが、ニート革命軍最高幹部!」
「ありがとうございます。」
歩(あゆみ)は黙っていた。雲を見ながら自転車を漕いでいた。
「心はお天気みたいなもので、そして人生もお天気みたいなもので、晴れてる日もあれば、曇ってる日も雨の日もある。」
「……」
「天気の悪い日は、じっとして我慢をしていれば必ず晴れる、」
龍次が歌い出した。

The sun'll come out
Tomorrow
日が差すわ明日こそ〜♪

Bet your bottom dollar
That tomorrow
There'll be sun!
なけなしの1ドル それを賭けても大丈夫〜♪
間違いっこない 明日は晴れる〜♪

Just thinkin' about
Tomorrow
Clears away the cobwebs,
And the sorrow
'Til there's none!

明日のことを考えるだけで〜♪
蜘蛛の巣や悲しみは消えるわ〜♪

When I'm stuck a day
That's gray,
And lonely,

灰色で悲しい日に捕まってしまったとき〜♪

I just stick out my chin
And Grin,
And Say,
Oh!

わたしは顎を突き出して にやっとしてこう言う oh! 〜♪

The sun'll come out
Tomorrow
日が差すわ明日こそ〜♪

So ya gotta hang on
'Til tomorrow
Come what may

だから 我慢しなきゃあ 明日まで 何があろうと〜♪

Tomorrow! Tomorrow!
I love ya Tomorrow!
You're always
A day
A way!

明日 明日 好きよ明日〜♪
いつも 一日だけ先にあるのね〜♪

下手だったけど、三人は拍手をした。
「あ〜〜、珍しく歌っちゃった〜!下手で、ごめんなさい!」
ショーケンが感想を述べた。
「英語と日本語で歌うなんて、器用だなあ〜。」
歩(あゆみ)の母が、「保土ヶ谷さん、ありがとう!」と言った。少し涙ぐんでいた。
自転車の前方を、リスが横切って行った。歩(あゆみ)は叫んだ。
「あっ、リスだわ!」
「ほらね、通りを離れるといろんなものが出てくるでしょう。楽しいでしょう。」
「うん、少し楽しくなってきたわ。」
木々の緑が色づき始めていた。小鳥がさえずっていた。
「自然はいいなあ〜、何ものにも媚びずに、しかも強くて美しい。虚飾の都会の風景とはまったく違うね。」
ショーケンが言った。
「だけど、そういうものに憧れる者もいるよ。」
「虚飾の都会にですか?」
「そう。」
「そうですね。たぶん、真実の美しさや自然の優しさが見えないんでしょうねえ、そういう人は。」
ショーケンは、近くの看板を見ていた。
「犬の七五三(ひちごさん)ってのがあるんだ?」
歩(あゆみ)の母が答えた。
「野迫川(のせがわ)の神社でやってるんですよ。」
龍次が答えた。
「昔と違って、神社も大変なんですねえ。あの手この手と。」



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