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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第176回   神の罠理論
四輪電動自転車・龍神号は、スピードを緩めて、ゆっくりと龍神スカイラインの入口に向かっていた。
ショーケンは入口の看板を見ていた。
「なあんだ、しっかりと有料じゃん!」
「あっ、忘れてた。今月から有料なんだ。」
龍次の後ろの歩(あゆみ)の母親も同じように言った。
「あっ、そうそう、そうなんですよ。わたしも忘れていました。」
ショーケンは、料金所の先を不安げに見た。
「ここ、自転車は大丈夫なの?こんな自転車じゃ、のろのろで危ないんじゃないの?」
「大丈夫です。自転車と歩行者の専用道が、この道に沿ってあるんです。」
「そうなの。そりゃあ、大したもんだ。」
龍神号は料金所で止まった。
「四人ですね。八百円です。」
龍次は支払った。
道路は、左側のガードレールの外の幅三メートルほどの道が人と自転車の専用道路になっていた。
龍次は遠くの景色を見ていた。
「いやあ〜〜、なにもかもが生き生きしてるなあ〜!」
歩(あゆみ)は、つまらなそうに黙っていた。
龍次は質問した。
「歩(あゆみ)ちゃん、どう楽しい?」
「…あんまり。」
「楽しくないってことかあ…」
母親が口を開いた。
「この子、変なことばっかり言うんですよ。」
「変なことって?」
「人間は何のために生きているのか?とか。」
「ふふん…」
「生きて、学校で勉強して、働いて結婚して、死んで行く。それがいったい何になるの?とか。」
「ふ〜〜ん、なるほどね。」
歩(あゆみ)が絶えかねて、喋り出した。
「みんなが当たり前だと思ってることが分からなくなるです。図々しく幸せに生きることが人生なの?って。」
「うん?ずうずうしく幸せ生きる…」
「ただ与えられたことに生きるなんて、何の意味があるんでしょう?」
「生きる意味ねえ…、ずいぶんと難しい質問だなあ…」
ショーケンが口を開いた。
「それは、神の罠なんだよ。」
予期しない答えに、歩(あゆみ)が興味を示した。
「神の罠?」
「人間も動物も、そういう風に作られているんだよ。子供を産んで次の世代を残すように。つまり、人間も動物も、次の世代を残すために生きているんだよ。」
「残して何になるんですか?」
「進化するために、進化させるために子孫を残すんだよ。」
「進化のため?」
「そうだよ。」
「じゃあ、進化しない人間や動物は?」
「絶滅するよ。それが、自然淘汰ってやつだよ?」
「しぜんとうたって?」
龍次が解説を入れた。
「優れた遺伝子だけを子孫に残すってことだね。劣勢遺伝子は抹殺される。」
「じゃあやっぱり、漠然と図々しく幸せに生きてはいけないってことでしょう?」
ショーケンは首を傾げた。
「そういうことになるのかな?だけど、人々は漠然と図々しくは生きていないよ。それぞれに、必死で生きているんじゃないのかな?」
「そうかなあ?」
「ねえ、お母さん!」
母親が口を開いた。
「そう、平凡だったけど、図々しく必死で生きてきたわ。」
「だから、これも神の罠なんだよ。」
「図々しく生きることが?」
「図々しく生きられることが。」
「どういうことですか?」
「死なせたら、元も子もないでしょう。だから、神は最後まで人間を生きさせるの。たとえ、劣性遺伝子でもね。」
「図々しく、こうやって楽しくサイクリングしていることも、その神の罠なんですか?」
「そういうことだね。」
龍次が頷いた。
「なるほど〜、ショーケンさんは哲学者だなあ〜!」
それは、ショーケン十八番(おはこ)の、神の罠理論であった。
「そういえば、若い頃わたしも、そういうことをぶちまけてたなあ〜。」
母親が尋ねた。
「えっ、保土ヶ谷さんがですか?」
「はい。今思うと、若い頃は、そういうことを考えてましたね。あれって、なぜなんでしょうねえ?」
「そうなんですかあ…」
「橘さんも、きっとありますよ。忘れてるだけなんですよ。」
「そういえば、あったような…」
「でしょう!」
「ありました、ありました!」
「ないやつは、馬鹿ですよ。人間はそうやって大人になって行くんですよ。」
歩(あゆみ)は黙って二人の話を聞いていた。初秋の優しい風が吹いていた。




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