「根本大塔には超びっくりしたけど、龍の庭園も広くて凄かったわ〜!」 「蟠龍庭(ばんりゅうてい)のことですね。日本一大きい石庭なんですよ。」 「そうなんですかあ。いいものを見たわあ。」 「実際に見ないと、あの素晴らしさは分かりませんね、」 「そうですねえ〜。」 きょん姉さんとアニーは、女人堂の前にいた。 「女人堂って何ですか?」 「昔は、明治になるまで高野山は、女人結界と言って女性は入れなかったんですよ。」 「にょにんけっかい。」 「でも、ここまでは来れたんです。もっと古くは、慈尊院(じそんいん)まででしたけど。」 「そういえば、慈尊院(じそんいん)に書いてありました、そういうことが。」 「信仰心の篤(あつ)い女性信者のために、結界の外に拝(おが)む場所として女人堂が建てられたんです。」 「そうなんですか。」 「明治時代以降、多くの山の女人結界が解除されたんです。」 「それまでは、女性は入れななかたんですね。ふ〜〜ん。」 「昔は、高野山には七つの入り口があって、それぞれ女人堂があったんですけど、今ではここだけしか残っていません。」 「そうなんですか。」 二人は、女人堂の前で目を閉じ静かに手を合わせた。 女人堂の脇にスタンプ小屋と書かれている赤い屋根の小さな建物があった。きょん姉さんがアニーに尋ねた。 「何かしら、あれ?」 「さ〜〜〜ぁ、初めて見たわ。」 「行ってみましょう。」 「そうですね。」 行ってみると、五十センチほどの右手にスタンプを持った地蔵さんが立っていた。 看板に、『女人堂のスタンプです。手前のレバーを引くとスタンプされます。』と書かれてあった。 姉さんが上着の胸の内ポケットから小さな手帳を出した。 「これに押してみようっと。」 姉さんは、スタンプ台に手帳を開いて置いた。手帳を左手で押さえながら、右手でハンドルを下げた。ハンドルは動かなかった。 「あれ?」 音声ガイダンスが流れた。 「十円硬貨を入れてください。」 「なあんだ、有料か。」 アニーが十円硬貨を入れた。 「はい、これで大丈夫。」 「頼むよ、お地蔵さん!」 と言いながら、姉さんはレバーを下げた。女人堂のスタンプが無事に押された。 「お〜〜、ワンダフル!綺麗なスタンプだわ〜!絵葉書を持ってくればよかったわ。」 近くで、お坊さんが手のひらに何かをのせて、山雀(やまがら)に餌を与えていた。山雀(やまがら)は恐れもしないで、その餌をつついて食べていた。姉さんは、びっくりした。 「見て、アニーさん!」 「あれは、いつもの光景です。」 「いつもの?」 「高野山の山雀(やまがら)は、人に慣れているんです。」 「へ〜〜〜、何を食べてるの?」 「ひまわりの種です。」 「わたしもやってみたいなあ。」 姉さんは、周りを見回した。 「おかしいなあ、ヒマワリの種なんか売ってないみたいだけど…」 「あの種は、お坊さんしか持ってないんですよ。」 「ずる〜〜〜い!」 「お願いしたら、くれますよ。」 「そうなんですか?」 「はい、たぶんね。」 「じゃあ、行ってこよ〜〜っと!」 姉さんは、お坊さんにニコニコしながらスキップで歩み寄った。 「すみませ〜〜〜ん。ヒマワリの種、少し分けてくれませんか?」 お坊さんは姉さんの顔を見ると、親切に答えた。 「ああ、いいですよ。」 お坊さんは、腰にぶら下げている袋から、一握りのヒマワリの種を渡した。 「はいどうぞ。」 「ありがとう、ございま〜〜ぁす!」 姉さんは、少女のように無邪気に喜んだ。早速、お坊さんの真似をして左手の平にヒマワリの種をのせた。 「よっといで、よっといで。」 山雀(やまがら)が一羽とまった。種をついばみながら食べ始めた。姉さんは目を丸くして無言で感激していた。アニーは微笑んでいた。
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