きょん姉さんは、その建物をまじまじと睨むように、目を見開いて見上げていた。その巨大で荘厳(そうごん)な佇まいに、身体が硬直して動かなくなっていた、目は見開いたままで、口は開いていた。アニーが声をかけた。 「葛城(かつらぎ)さん!大丈夫?」 姉さんは、自分に気合いを入れるようにシャウトした。 「奈良の大仏、立ち上がってバンバンジ〜!」 姉さんは我に帰った。 「あ〜〜、びっくりした!」 「何ですか、今のは?」 「奈良の大仏、立ち上がってバンバンジ〜のことですか?」 「はい。」 「びっくりしたときに、これをやると落ち着くんです。」 「奈良の大仏、立ち上がってバンバンジ〜って、何なんですか?」 「子供の頃に見た漫画のセリフなんです。奈良の大仏、立ち上がってバンバンジ〜!っと言って万歳をするんです。」 「何と言う漫画ですか?」 「バンバンジー仮面という漫画です。知らないんですか?」 「バンバンジー仮面?聞いたことありませんねえ。」 「バンバンジーを食べると、奈良の大仏のように大きくなって強くなるんです。ほんとうに、知らないんですか?」 「はい。初耳です。」 「え〜〜〜、ほんとう?」 「日本の漫画ですか?」 「勿論、日本の漫画です。」 「聞いたことありませんねえ…」 「神奈川だけのローカル番組だったのかなあ?おっかしいな〜。」 「そのバンバンジーって、強いんですか?」 「どっかんどっかんと、悪い奴を踏み潰すんですよ。凄かったわ〜。」 「どのくらい大きいんですか?」 「奈良の大仏が立ったくらい、大きいんですよ。」 「奈良の大仏が立ったくらい…、座っている奈良の大仏は、確か十五メートルほどですから、二倍として三十メートルくらいかな?」 「三十メートル…、もっと大きかったかなあ…」 「五十メートルくらいですか?」 「うん、そうかも知れない。なにせ大きかったんですよ。クルマを踏み潰すんですから。」 「じゃあ、この根本大塔 (こんぽんだいとう)くらいですね。」 「え〜〜〜、この金ピカの建物って、五十メートルもあるんですか〜!?」 「はい、あります。」 「凄いなあ〜〜〜!」 超巨大な根本大塔の朱色の壁面が姉さんを威圧していた。 「これって、人間が作ったんですか?」 「はい。」 「どうやって建てたんだろう、こんなもの?昔の人がですか?」 「はい。」 離れたところで、バスガイドの女性が、観光客を前に説明をしていた。 『この超巨体な多宝塔は、高さ十六丈、約四十九メートル、弘法大師在世中には完成を見ず、高野山第二世真然大徳(しんねんだいとく)の代に完成したと伝えられ、いつの頃からか根本大塔と呼ばれるようになりました。』 姉さんは耳を立てて聞いていた。 「そんな古い時代に出来たんだ、おっそろしい…」 『千八百四十三年、天保十四に焼失し、そのあまりの巨大さから、以後再建されずにいましたが、千九百三十七年、昭和十二年に国会議事堂の設計にも関与した武田五一博士らによって再建されました。』 「まさしく、奈良の大仏、立ち上がってバンバンジ〜だなあ〜。」
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