歩(あゆみ)が叫んだ。 「あっ、ちょっと待って!」 龍次は龍神号を止めた。 誰かが駐車場の入口の近くで手を振っていた。 歩(あゆみ)が指差した。 「あそこまで行ってくれます?」 龍次は指し示す方向を見た。 「あの手を振ってる麦藁帽子の人のところ?」 「そう。学校の友達なの。」 「ああそうなの。分かった。」 麦藁帽子の人は、まだまだ若い女性だった。歩(あゆみ)が挨拶した。 「カナ、何時から売ってるの?」 「九時から。面白いのに乗ってるのね。電気?」 「そう、電気で走るの。半分だけど。」 「いいいなあ〜、どこに行くの?」 「ハイキング。野迫川村(のせがわむら)まで。」 「いいなあ〜。」 「あっ、そうだ。ちょうど良かったわ。その無花果(いちじく)大福、四つちょうだい。」 「ありがとうございま〜〜〜す!」 「いくら?」 「一つ二百円で、八百円です。」 歩(あゆみ)は財布から、お金を出そうとした。龍次が割って入った。 「あっ、それ僕が出すよ。」 龍次は、カナに千円出した。 「どうもありがとうございます。」 「僕は、無花果(いちじく)も大福も大好きなんですよ。同時に食べられるなんて、いいねえ〜。」 龍次は、カナが差し出した釣り銭を受け取った。 外国人がやってきたので、歩(あゆみ)はカナに手を振った。 「じゃあね。頑張ってね!」 「うん。ありがとう!あっ、そうだ!」 カナは内ポケットから名刺のようなカードを出して、歩(あゆみ)に手渡した。 「なあに、これ?」 「ホームページ作ったの。」 「わ〜〜ぁ、凄いなあ。自分で作ったの?」 「うん。」 「凄いなあ〜〜!」 「パソコン持ってたよねえ。」 「持ってるよ。帰ったら、すぐに見てみるよ。」 「ありがとう。手編みのマフラーとか帽子とか売ってるんだ。」 「わ〜、ほんと〜〜?!やるじゃん〜〜!」 「わたしの絵もつけてね。」 「さっすが、カナ!しっかりしてる〜〜!」 「見たら、批評して。」 「分かった!絶対に見てみるよ。」 四人の外国人が立ち止まり珍しそうに無花果(いちじく)大福を見ていた。女の外国人が質問した。 「ワット、イズイット?」 カナちゃんは微笑しながら答えていた。 「グッドテイスト、イチジクダイフク!」 「イチジクダイフク?」 「困ったなあ…」 龍次が応援に割って入った。 「ア・ライスケイク・スタッフド・ウイズ・フィグ。」 「フィグ…」 「ベリーベリー・デリシャス・ジャパニーズフルーツ。」 「オ〜〜、アイシー!」 「イーチワンイズ・ツーハンドレッド・エン。」 「オ〜、リ〜ズナブル!」 外国人は、千円札をカナに差し出した。右手の指を四本立てた。 「フォー!」 「はい、四個ですね。ありがとうございます!」 その光景を見ていた日本人の観光客が大勢やってきた。 あわてて龍次はペダルを踏み込んだ。歩(あゆみ)がカナに手を振った。 「じゃあね!」 カナも手を振った。 「どうも〜、ありがとう!」 龍次たちは、龍神スカイラインに入って行った。 ショーケンが質問した。 「ここ、無料なの?」 龍次が答えた。 「無料です。」 「自転車も大丈夫なんだ?」 「はい。」 龍次たちが去った後、カナの前を紋次郎がカタカタと松葉杖をつきながら通り過ぎて行った。 「高野山は観光客でいっぱいだ。山奥に行こう。」 紋次郎を見ていた子供が指差した。 「あっ、ロボットだぁ!あのロボット、足がおかしいよ。」 紋次郎は、その子供の声を聞きながら、ひたすら前を見て歩いていた。初秋の爽やかな風が、容赦なく心の無いロボットの紋次郎に当たっていた。紋次郎の上をカラスが変な鳴き声を発しながら飛んで行った。 カラスは大きな看板の上に止まった。看板には、野迫川・わさび焼酎と書かれてあった。 「わさび焼酎(しょうちゅう)かあ…、どんなものなんだろうなあ。人間になって飲んでみたいなあ…」
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