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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第171回   龍神号
街路樹のもみじが少し色づきはじめていた。カラスが停まっていて自転車を見ていた。
そのカラスを見上げながら女子高生の歩(あゆみ)が龍次に尋ねた。
「この四輪電動自転車、名前はないんですか?」
「まだないんですよ。」
「これ、売ってませんよねえ。」
「イタリアの元F1レーサーの、ロカターニ・トメーロ氏の設計なんです。イタリア製です。」
「ふ〜〜〜ん。」
「なんとなく違うでしょう?」
「うん、まるで雲の上を滑ってる感じ。」
「イタリアの乗り物は、実用というよりも、スポーツ志向なんですよ。」
「そういう感じだわ。」
龍次は、高野山病院の前で止まった。
「ちょっと待っててください。杉本さんを見舞ったら、すぐに戻って来ます。」
ショーケンが思い出した。
「ああ、ギックリ腰の人ね。俺も行きましょうか?」
「いいですよ。すぐに戻って来ますから」
そう言うと、龍次は病院の中に入って行った。そして、ショーケンが煙草を吸い終わるころに戻ってきた。
「さあ、行きましょう!」
ショーケンが尋ねた。
「杉本さん、どうでした?」
「だいぶ良くなってるみたい。なんだか、病院はインフルエンザで大変みたいだよ。」
「ああ、新型の?」
「そういうことでしょうね。早々に帰ってきちゃった。」
女子高生の歩(あゆみ)が言った。
「うちの学校も大変なんですよ。」
龍次は自転車に乗り込んだ。
「風邪をひくとインフルエンザにもかかりやすくなるので、風邪をひかないように注意しましょう。」
「注意するって、どうやって注意するんですか?」
「わたしの祖母が言ってたなあ、風邪は寒くなると寝てるときに手から入ってくるって。」
「手から?」
「だから、手袋をして寝ろって。今思うと、身体を冷やすなってことだろうな。」
「手袋ねえ、それいい考えだわ。寒くなったら私もやってみようっと。」
「毛糸の手袋がいいって言ってたよ。」
「毛糸の手袋ですか。なるほどねえ。」
初秋の空は高く澄み渡っていた。二羽の鳶(わし)が舞っていた。木々に止まった山雀(やまがら)がさえずりあって、なにやらおしゃべりをしていた。
「高野山は平和だなあ。」
龍次が「さあ、行きましょう!」と言うと、自転車は動き出した。
前方から、白旗を持った小学校低学年くらいの少女が二人、手をかざしながら歩いていた。
龍次たちの目の前に来たとき、外国人らしい男女二人が不思議そうに少女たちを見ながら通り過ぎて行った。
少女たちはほぼ同時に目を手で隠した。そしてほぼ同時に小さな声で叫んだ。
「あっ、アメリカーだ!」「あっ、アメリカーだ!」
龍次が質問しようと思っていると、少女たちはすたすたと後方に去っていった。
「なんですかね、あの子供たち?」
歩(あゆみ)の母親が説明した。
「あれは、白旗の少女だわ。ねっ、歩(あゆみ)?」
「うん、きっとそうだわ。この前テレビで観たのにそっくり。きっと真似をして遊んでいるんだわ。」
「そうね。」
四輪電動自転車は大通りに出た。
「ちょと待って、お父さんに電話するから。」
龍次は自転車を止めた。
「店まで行きましょうか?」
「いいです。逆方向ですから。」
携帯電話を取り出し電話をかけた。電話はすぐに終わった。
「いいって言ってたわ。保土ヶ谷さんによろしくって。」
「ああ、良かった。じゃあ、何か買ってきてあげましょう。」
自転車は、龍神スカイラインの方に向かって走り出した。
歩(あゆみ)が提案した。
「これ、この自転車、龍神号ってどうでしょう?」
「龍神号…、いいねえ。じゃあこれから龍神号にしよう。」
龍次は力強く、龍神号のペダルを踏み込んだ。カチャっという音がした。ショーケンは驚いた。
「何、今の音?」
「負荷が変わると、自動的にギアチェンジするんです。」
「そういうことか。さすが龍神号!」
大通りの売店では、お彼岸用の高野槇(コウヤマキ)が売られていた。
弘法大師の眠る御廟(ごびょう)に通じる奥の院前の中の橋駐車場には、沢山の観光バスや乗用車が止まっていた。
龍次は右にハンドルをきった。



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