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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第170回   いざ、出発!
四輪電動自転車は、作業所から五十メートルほど離れた集会所の倉庫に置いてあった。
龍次たちが、作業所の横を歩いていると、作業所の窓から、窓を開けて誰かが顔を出した。甲賀忍だった。
「龍次さん!」
「おっ、なんだよ。足の具合は、どう?」
「駄目だね。悪いけど、ポンポコリンに頼んで、松葉杖を待ってきてくれない。」
「松葉杖、どうしたの?」
「紋次郎に貸したんですよ。」
「ああそうなの。分かった、持ってくるよ。」
「すみません!」
集会所の奥は、医療室になっていた。
龍次はノックした。
「ポンポコリン、いる?」
「います。どうぞ。」
龍次は入って行った。説明すると、直ぐに出てきた。
集会所の前で、三人は龍次を待っていた。龍次は、何も持たずに出てきた。
ショーケンが聞いた。
「あれ、松葉杖は?」
「彼女が持って行くって。」
「ああ、そう。」
「みんな、ここで待ってて、持ってくるから。」
龍次は、倉庫に向かった。そして、すぐに電動四輪自転車の乗って戻ってきた。
「ショーケンさん、勿論行くよね?」
「勿論、行くよ。ファンのためなら、どこでも行くよ。」
「さすが、エンタティナー〜!」
ショーケンは、親子に尋ねた。
「橘(たちばな)さんたちは、どこに乗りたいですか?」
お母さんが、びっくりした。
「あれ、まだ名前とか言ってなかったような気がしたんですけど?」
歩(あゆみ)も首を傾げた。
「そうだよね、お母さん昨日は感激しちゃって、言うの忘れちゃったんだよね。」
ショーケンは微笑んだ。
「橘レンタル自転車って書いてありましたよ。」
「あっ、そうか。」
「えっ、どういうことかしら?」
「一昨日、うちの自転車を借りたの。」
「ああ、そういうことですか。」
「ついでに、お名前も聞いていいですか?」
「順子です。」
「わ〜〜〜、僕の初恋の人と同じ名前だ〜!」
「ほんと〜〜!?」
「嘘!」
「も〜〜〜う!そういうところ、本物のショーケンにそっくりだわ。」
「ありがとうございます。」
歩(あゆみ)が、「変な返事!」と言うと、順子は笑った。
龍次が突っ込みを入れた。
「アイドルはいいなあ。何を言っても憎まれないから。普通は、大人がそういうこと言うと嫌われるよね。」
歩(あゆみ)も同意して、大きく頷いた。
「なあるほどね。」
「なあるほどねって、どういうこと?」
「ショーケンさんの言い方には、子供のように邪気がないわ。逆に母性本能をくすぐる危うさがあるわ。」
「あ〜〜、そういうことか。なるほどね。それ言えてるね。だったら天性のものだね。」
龍次はショーケンを見た。
「俺、変わってるのかな?」
「変わってるというか、…人徳ですね。」
母親が得意げに言った。
「女に好かれて、男に好かれる男は、そうはいないわ。」
「そうですねえ。」
少女が四輪電動自転車の右後ろに乗り込んだ。
「わたし、ここでいいわ。お母さん、隣に乗って。」
母親は素直に応じた。
「はいはぁい。」
「お母さん、スカートじゃなくってよかったね。」
「ほんと、よかったわ。」
龍次がちょっと大きな声をあげて、右手の人差し指を天に突き出した。
「じゃあ、行きましょう!」
「ってことは、俺はこっちか。」
ショーケンは龍次の隣のサドルにまたがった。車輪を操作できない一本棒のハンドルを握った。
四輪電動自転車は、ゆっくりと走り出した。
「お〜〜〜、いいねえ、これ!」
ショーケンの褒め言葉に、龍次は喜んだ。
「なかなかいいでしょう。ちゃんと整備してありますから。」
「ヒューマニズムを感じるねえ。」
「ヒューマニズム。いいこと言いますねえ。」
橘順子は感心していた。
「自転車は、まるっきり機械のお世話じゃなくっていいですねえ。こうやって風を感じられるし。自然の営みと対話できるし。」
龍次は目の前の風を見ていた。
「森林浴の空気を吸ってのエアロビクス、これが健康にいいんですよ。精神的にも。そして、自然と一体になって走っていれば、いろんなことを自然が教えてくれます。」
母親が聞いた。
「人生もですか?」
「はい!」
四輪電動自転車は、大通りに向かって進んでいた。


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