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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第169回   涙の後のハイキング
歩(あゆみ)は、俯(うつむ)きながら呟いた。
「ときどき、生きることが辛くなるの…」
龍次は悲しかった。目が涙で潤んでいた。若い命を救わないといけないと強く感じていた。
「その友達はどうしたの?」
「鎌倉に引越したんです。」
「それで、寂しくなったんだな。」
「はい。」
「仕方ないよ、今の時代はメールもあるし、無料のインターネットのテレビ電話もあるじゃないか。」
「はい。」
「生きるって、辛くて大変なことなんだよ。」
歩(あゆみ)は、うつむきながら小さく頷いたが、黙っていた。
「ちゃんと食べなきゃあいけないし、変なもの食べたら病気になるし、野生の動物と違って、服や家がないと生きていけないし、お風呂にも入らないといけないし、病気になるでしょう。歯を磨いたり、洗濯したり、勉強したり、身体を鍛えたり、そういうことをしないと生きてはいけない。人間は弱いから、野生の動物のようには生きてはいけない。」
「はい。」
「みんな、一生懸命に生きているんだよ。みんな弱い人間だから。人間は弱いから、一人では生きていけないから。」
「……」
「一人で生きてる人がいたとしても、先人の知恵を借りて生きているんですよ。」
母親も涙ぐんでいた。
「ここまで、お母さんが一生懸命に育てたんだよ。」
ショーケンが割って入った。
「そうだよ、少しは育ててくれた人のことも考えろよ。」
歩(あゆみ)は、涙を流していた。母親が抱きしめた。
「いいのよ、あなたが元気であれば。お母さんは、それだけでいいの。」
少女は大きな声で泣き出した。
「お母さ〜〜ん!ごめんなさ〜〜い!」
「いいのよ。わたしだって、若い頃は同じことをやったんだから。」
少女は泣き止んで、母親を見た。
「え〜〜、お母さん、ほんと?」
「ええ、ほんとよ。死にたい死にたいって言って、さんざん親を困らせたわ。」
「ほんとに?」
「ほうとうよ。」
ショーケンも驚いた。
「あらら。」
龍次は少し笑ってみせたが、その目は優しくも厳しく鋭かった。
「よし、人生を探しに行こう!」
みんなは、龍次に注目した。龍次は、少女の肩をポンと叩いた。
「思春期病ってやつだな。そう言えば、わたしもいろいろと悩んでいたな。」
母親が尋ねた。
「保土ヶ谷さんもですか?」
「そうですよ。わたしだって、これでも多感な青春時代があったんですから。」
「そうなんですか。」
「彼女にふられて、なにもかもがいやになって死にたくなってね。」
「それでどうしたんですか?」
「死ぬのは負けだって結論に達したんですよ。」
「それで?」
「偉くなって、彼女を見返してやろうと思ったんですよ。」
「なるほどね。」
ショーケンは、冷たい目で三人を眺めていた。親のないクローン人間の彼には、どうがんばっても実感できない話しだった。
ショーケンは小さく呟いた。
「親のあるやつはいいよな。」
龍次が気がつき尋ねた。
「ショーケンさん、何か言った?」
「いや、何も。」
「よし、今日はハイキング日和だから、平家落人の里・野迫川村でも行ってみましょうか。野迫川小学校では、有名な夜叉太鼓(やしゃだいこ)とか練習でやってるかも知れないよ。あそこは、白樺林が綺麗なんだよ。小動物もたくさんいるしね。」
「歩き?」
「歩いたら日が暮れますよ。わが村の電動四輪自転車で行きましょう。」
「ああ、あれか。あれ、大丈夫?」
「大丈夫って?」
「行って、帰ってこれる?」
「大丈夫ですよ。橋本まで行って帰って来たんですから。」
「それならいいけど。途中でバッテリー切れなんて嫌だよ。」
「大丈夫ですって!」
龍次は、歩(あゆみ)ちゃんと母親に尋ねた。
「大丈夫ですよね、今日一日?」
母親が即座に答えた。
「ハイキングですか?」
「はい。夕方までなら。」
「五時までには帰って来れます。」
母親は娘に尋ねた。
「歩(あゆみ)、大丈夫だよね?」
「大丈夫よ。今日は予定がないから。」
「お母さん、自転車、漕げますよね?」
「いつも、電動自転車に乗ってますから大丈夫です。」
「別に、みんなが漕がなくても走りますから。」
「ああ、それいいわねえ。」
「じゃあ、行きましょう!新しい人生を探しに!」
龍次は賄い場に行った。
「みっちゃん!」
みっちゃんが出てきた。
「何でしょうか?」
「四人分の弁当を作ってくれない。飲み物も頼むよ、何でもいいよ。」
「分かりました。」
龍次が戻ってきた。
歩(あゆみ)の母親が何かを差し出した。
「あ〜〜、ちょうど良かったわ。これ食べてください。おやつに。」
「何ですか、これ?」
「柿とクリームチーズのデザートです。」
「ほ〜〜ぉ、なんかおいしそうですねえ。」
歩(あゆみ)ちゃんが口を出した。
「ほんとうは、ショーケンさんに持ってきたんですよ。」
「なあんだ、そういうことだったのか。」
母親がショーケンに謝った。
「ごめんなさい!」
「いいよ、いいよ!こんなに食べられないよ。」
弁当とペットボトルに入った飲み物が出てきた。みっちゃんが、龍次に渡した。
「はい!」
「よし、行きましょう!」



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