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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第167回   ロボットの叫び
 おしつけられたら 逃げてやれ〜 気にする程の奴じゃない〜 ♪
  人を語れば 世を語る〜 語りつくしてみるがいいさ〜 ♪
 理屈ばかりをブラ下げて〜 首が飛んでも 血も出まい〜〜 ♪

作業所の中で、紋次郎が椅子に座って歌っていると、甲賀忍が入ってきた。
「よっ、紋次郎、おはよう!」
紋次郎は忍を見た。
「おはようございます。」
「吉田拓郎だね!」
「ご存知ですか?
「知ってるよ。俺、これでも歌手だぜ。」
「あ〜、そうでしたね。変な同じリズムの。」
「ラップ!」
「サランラップみたいな歌ですよね。」
「サランラップ?」
「失礼しました。失言です。」
「吉田拓郎は誰でも知ってるよ。日本人なら誰でも知ってるよ。外国人でも、けっこう知ってるよ。」
「ああ、そうですか。」
「日本のフォークソングは、吉田拓郎から始まっているんだよ。」
「ああ、そうなんですか。それまでは無かったんですか?」
「あったけど、外国の物真似フォークソング。」
「そうだったんですか。」
忍は、左足をかばって両脇にアルミの松葉杖をついていた。
「どうしたんですか、忍さん?」
忍は、自らを嘲(あざけ)るように笑んでいた。
「熊と相撲して、投げ飛ばされちゃったんだよ。」
「熊と相撲したんですか?」
「ああ、そうだよ。馬鹿みたいだろう。」
「ひょっとして、保土ヶ谷さんを投げ飛ばした五郎という熊ですか?」
「そう、その五郎。すっげえ強かったよ。」
「負けるに決まってますよ。無茶ですよ。どうしてそんな馬鹿なことをしたんですか?」
「したんじゃなくって、無理やりにそうなったんだよ。」
「無理やりに?」
「案山子(かかし)を立ててたら、五郎がやって来て襲われたんだよ。」
「逃げればよかったのに。」
「相撲に組まれて身動きが取れなかったんだよ。」
「それで投げ飛ばされんですか?」
「投げ飛ばそうとしたんだけど、重くて駄目だったよ。腕も胴体も太いし、人間とはまったく違うよ。」
「脚のどこを?」
「足首だよ。骨折はしてないらしいけど、明日病院に行くよ。」
「痛いんですか?」
「歩くと、ちょっとな。それにしても、おまえ、歌上手いなあ。」
「そうですかあ?」
「もう一回歌ってみな。」
「同じ歌をですか?」
「別のでもいいよ。」
「じゃあ、別のを。」
紋次郎は再び歌い出した。

 君が僕を嫌いになったわけは 真実身がなかったっていうことなのか〜 ♪
  そんなに冷たく君の愛を おきざりにしたなんて 僕には思えない〜 ♪
   だけどもうやめよう 髪の毛を切っても 何ひとつ変わらないよ そんな僕 ガンコ者〜 ♪
 遊び上手は誰かさんのもの どんなに僕が 君を欲しかったとしても〜 ♪
  言葉がなければ 信じない人さ 言えないことは 勇気のないことかい〜 ♪
   だからもうやめよう 静かな店も 僕は好きなんだ 嫌いだよね 君は〜 ♪
 信じることだけが 愛のあかしだなんて 借りてきた言葉は 返しなよ〜 ♪ 
  突き刺すような雨よ降れ 心の中まで洗い流せ〜 ♪
   忘れることはたやすくても 痛みを今は受けとめていたい〜 ♪

高野山に、どんぴしゃの風が吹き進んでいた。
突然、忍が倒れこんだ。紋次郎は、びっくりして歌うのを止めた。
「どうしたんですか!?」
「座ろうとして、失敗したんだよ。」
「だいじょうぶですか?」
「どおってことないよ。」
「ああ、びっくりした。」
「そんなにびっくりすることはないじゃないか。」
「そういうふうにできてるんです。」
「そういうふうにって?」
「人間を守るように。」
「そうか。」
紋次郎は、心配そうに忍を見ていた。忍は立ち上がった。
「大丈夫だよ。」
「大丈夫そうですね。」
「お前の歌は上手いんだけど、まったく心がないね。」
「その心を教えてください。」
「心を教える?」
「はい。」
「そんなものは、教えられるもんじゃないよ。」
「どうしてですか?」
「どうしてって、言葉では教えられないんだよ。」
「じゃあ、何で?」
「心は心でしか教えられないんだよ。」
「じゃあ、心のない者には、どうやって教えるんですか?」
「…だから、教えられないの。」
「それは変ですね。」
「変じゃないよ。」
「困ったなあ…、せっかく高野山まで来たのに。」
「そうだ、お坊さんなら知ってるかもな。」
「お坊さんですか。どこの?」
「どこのって、そこら辺の寺にいるよ。ここは高野山だから。」
「いいことを聞きました。ありがとうございます。」
紋次郎は立ち上がった。左足を引きずりながら歩き出した。忍は驚いた。
「おまえ、どこに行くんだよ?」
紋次郎は立ち止まった。
「お寺に行きます。」
「気が早い奴だなあ。」
「善は急げと言います。」
「その足でか?」
「仕方ありません。」
再び左足を引きずりながら歩き出した。
「ちょっと、待て!」
「なんでしょうか?」
「この松葉杖、持ってけ。」
忍は、松葉杖を差し出した。
「いいんですか?」
「新しいのもらうからいいよ。」
「そうですか。じゃあ頂きます。」
「貸すんだよ。」
「分かりました!」
「一人で大丈夫か?」
「一人で大丈夫です。」
「そうか…」
「無理をするといけません。安静にしてないといけません。」
「そうだな。」
紋次郎は、松葉杖を受け取ると歩き出した。外に出ると、ロボットの紋次郎は再び歌い出した。叫ぶように歌い出した。

 別れの時は僕が唄う時 僕の言葉は君へのサヨナラ〜 ♪
  それが今の僕だから 君は嫌いになっちまったんだよね 淋しさは嘘だね〜 ♪
   二人でどこへ行っても 一人と一人じゃないか〜〜 ♪ 



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