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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第166回   オンカカカ・ビサンマエイ・ソワカ
小さな雲が寂しそうに泳いでいた。アキラは、あの雲は自分だなあと思っていた。雲が「にいざお!」と言って挨拶しているように見えた。ヨコタンが不思議そうに、アキラの顔を見た。
「どうしたの?」
「にーざお!」
「えっ?」
「あなたも知らないことがあるんだ?」
「そりゃあ、ありますよ。た〜くさん、なんですか、に〜ざおって?」
「おはよう、です。中国語です。」
「あ〜〜、ニィ〜・ザオね。発音が悪いわ。ニィ〜・ザオよ。」
「ニィ〜・ザオ。」
「うん、まあいいかも。」
「誰に教わったの?」
「真由美ちゃんに教わっちゃった。」
「真由美ちゃんに?」
「真由美ちゃんって、中国語を知ってるんだ。びっくりしちゃった〜ぁ。」
「ああ、分かったわ。伊集院さんの近くに、中国人留学生の寮があるんですよ。」
「あ〜あ、じゃあ、さっき通ったのは学生だったんだ。」
「高野山大学の留学生なんですよ。」
「ここには大学もあるのぉ?」
「あります。平安時代に空海が朝廷より認定された大学があります。」
「平安時代!」
「かなり古い話ですね。」
「古過ぎてちゃってるよ〜〜。」
「日本で、最も古い大学でしょうね。」
「そりゃあ、古すぎだな〜ぁ。びっくりしゃっくりだよ〜。」
「びっくりしゃっくりですか。」
「ニィ〜・ザオ、かあ。」
「これからは、中国の時代ですね。」
「そうなの?」
「アメリカは、もう駄目でしょう。」
「そうなんだ。」
「第一、人の数が違いますから。」
「そんなに多いの、中国って?」
「約十三億人だったかな。」
「そ〜んなにいるんだ。びっくりしゃっくり!」
ピーヒョロロロロ…
聞いたことのある鳴き声に、アキラは上空を見上げた。
「あっ、トビだ!」
「トンビだわ。」
「こんなところにもいるんだ。海岸ばっかりと思ってたら。」
「トンビは、どこにでもいるんですよ。」
「そうなんだ。」
「鷹の種類ですから。」
「鷹なのか…」
「ここは、なんだか、心が安らぐなあ。」
「もうすぐ、紅葉だわ。」
「紅葉かあ、気持ち悪いなあ。」
「えっ、気持ち悪い?」
「だってそうじゃん、山が血のように真っ赤に染まって。」
「血のように?」
「ありゃあ、死ぬ前の血の色だよ。」
「死ぬ前の血の色?」
「枯葉だろう。散る前の、つまり死ぬ前の枯葉の色だろう。」
「そうだけど。」
「死ぬ前のものを眺めるなんて、趣味が悪いよ〜。」
「な〜るほどね。」
「あれをわざわざ眺めに来るなんて、気味が悪くて、ぞ〜〜っとするよ。いったいどういうこと?」
「そうなんだ。」
綺麗な赤い服を着た、小さなお地蔵さんが道脇に佇んでいた。
「あっ、お地蔵さんの服が変わってる。」
「可愛いなあ、このお地蔵さん。」
「お参りして行きましょう。」
「ああ、いいよ。」
地蔵菩薩の横には看板があり、
大地が全ての命を育む力を蔵するように、苦悩の人々をその無限の大慈悲の心で包みこみます。
と書いてあった。
「真言知ってます?」
「しんごん、って?」
「お地蔵様に挨拶するときの言葉です。」
「え〜〜、そんなのあんの?」
「じゃあ、わたしの言うとおりに真似してください。」
「いいですよ。」
彼女は手を合わせた。アキラも真似して手を合わせた。
「オンカカカ。」
「おんかかか。」
「ビサンマエイ。」
「びさんまえい。」
「ソワカ。」
「そわか。」
言い終わると、ヨコタンは時計回りに一回転した。アキラも真似して、一回転した。



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