ヨコタンを待って、ぼんやりと天軸山の上の雲を見ていると、真由美が出てきた。 お盆にコーヒーカップを載せていた。 「私が作った、たんぽぽコーヒーです。飲んでください。」 「たんぽぽコーヒー?」 真由美は、にこっと笑った。 アキラは黙って一口飲んだ。 「これおいしいなあ〜、これタンポポで作ったの?」 「はい。」 「あの、黄色い花のタンポポで?」 「はい。」 「本物のコーヒーみたいだねえ〜、おっどろき〜!どうやって作るの?」 「タンポポの根を洗って切って、水にしばらく入れてアク抜きをしたら、一週間くらい乾燥させて、フライパンで炒って作るんです。」 「簡単だねえ。」 「はい。」 「誰に教わったの?」 「お父さん。」 「ふうん…」 そんなに熱くはなかったので、アキラは一気に飲み干した。 「うん、おいしかった!」 アキラはコーヒーカップを真由美に返した。 「どうもありがとう!」 「いいえ、どういたしまして。」 学生風の若い男がやってきた。真由美ちゃんに、軽く頭を下げた。 「ニー・ザオ!」 真由美も頭を下げて挨拶した。 「ニ〜・ザオ!」 アキラにも軽く頭を下げた。「おはようございます。」 アキラも軽く頭を下げた。「おはようございます。」 通り過ぎていった。 「真由美ちゃん、何て言ったの?」 「ニ〜・ザオのこと?」 「うん、それそれ。」 「おはよう!って言ったの。中国語よ。」 「中国語かあ、真由美ちゃんは、中国語もできるんだ〜。」 「ちょっとだけね。」 「ふ〜〜ん。偉いなあ〜。」 真由美は、にこっと笑うと戻って行った。 「にいざお、ね…」 アキラは、中国語を何度も口にしながら目の前の風を見ていた。 「青い風だなあ…」 ヨコタンが出てきた。 「お待ち〜〜ぃ!」 「もう終ったの?」 「もう終ったわ。」 まさとと真由美も出てきた。まさとが深く頭を下げた。 「どうも、ありがとうございました。」 真似をするように、真由美も頭を下げた。 「どうもありがとうございました。」 ヨコタンは、まさとを見た。 「また何かあったら遠慮なく連絡して。」 「はい。」 真由美がヨコタンの顔を見た。 「わたしも早くアルバイトしたいなあ〜。」 「待っててね。」 「は〜〜い。これから、どこに行くの?」 「アキラさんと一緒に、カートに乗りに行くのよ。」 「わ〜〜ぁ、いいなあ〜。」 「今日はテストだから駄目だけど、来週からは乗れるわよ。」 「は〜〜〜い。」 ヨコタンとアキラは、大門に向かって歩き出した。 まさとの隣で、真由美が、「行ってらっしゃ〜〜い!」と叫びながら手を振っていた。 「何か見てたみたいだけど、何を見てたの?」 「…風。」 「風?アキラさんて、詩人なのね。」 「子供の頃に吹いてた、懐かしい風を感じたんだよ。変だなあ…」 「ふふん。」 「あのコーヒーのせいなのかなあ?」 「たんぽぽコーヒー?」 「そう、たんぽぽコーヒー。不思議な味の不思議なコーヒーだったなあ〜。」 「たんぽぽコーヒーは、ヨーロッパでは昔から飲まれているんですよ。」 「あ〜〜、そうなの。」 「胃腸の調子をよくしたり、頭をすっきりさせる効用があるんです。」 「じゃあやっぱり、コーヒーのせいかなあ。」 「そうかも知れませねえ。」
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