「まさと君は、熱心ねえ。プリンター、何に使うの?」 「いろいろと資料を集めたいんです。」 「資料?」 「新しい栽培技術とか、工場野菜とか、そういうものを。」 「ああ、テクノロジー野菜栽培ね。」 「そうです。」 「今は、季節や場所に関係なく作れるようになったわ。そういうもの?」 「そうです。」 「まだ、企業秘密が多いよ。」 「そうですね。」 「これから、農業大学とか行ったらいいんじゃないかしら?」 「行くつもりです。」 「そうだ。わたしたちもやってみようかなあ。この前、高野山テクノロジー研究所の人達も、そういうことを言ってたわ。まさと君も参加しない?」 「えっ、いいんですか、僕でも?」 「いいの、気持ちがあれば、誰でも。」 ヨコタンは、まさとの隣に立ってる真由美の頭を、しなやかな右手で撫でた。 「真由美ちゃんでもいいのよ。」 真由美は喜んだ。 「わたしでもいいの〜〜〜!」 「いいのよ。」 「わ〜〜〜、やってみたいなあ〜!」 「何をやってみたいのかなあ?」 「四角のおいしいトマトを作りたいの。」 「四角?」 「だって、だって、四角だったら転がらないでしょう。黄色いトマトも作りたいなあ〜。」 「それは面白そうねえ。」 アキラは、三人の会話を感心したように黙って聞いていた。 「アキラさんも、どう?」 「俺?俺はそんなの無理だよ。機械なら得意だけど。野菜とかは、さっぱり分かんないし。あんまし食べないしな〜。」 真由美ちゃんが得意げに言った。 「野菜を食べないと、病気になって頭が悪くなるんだから。」 「ああ、そうなの?」 「そうなのよ〜。食べなきゃ駄目よ〜!」 「だから俺、頭が悪いんだ!分かった!ちゃんと明日から食べよう!」 「きっと、もう転ばなくなるわ。」 「あ〜〜、はっはは!」 ヨコタンが、みんなを促(うなが)した。 「さあ、行きましょう!」 まさとはプリンターを持っていた。目が輝いていた。 「これで、いろんな新しい情報を印刷できるぞ!」 「まさと君は、きっと素晴らしい経営者になれるわ。」 真由美が質問した。 「経営者って、なあに?」 「社長さんよ。いろいろと考える偉い人。」 「ぅわ〜〜、かっこいい〜!」 「高野山から認可されたら、真由美ちゃんにも、ちゃんとアルバイト料を払うわよ。」 「ぅわ〜〜〜、ほんとぉ!?」 「ほんとよ。」 真由美は両手を上げて踊り出した。 「わ〜〜い、わ〜〜〜い!」 アキラも嬉しくなって、マイケルの後ろ歩きのバックステップで踊り出した。 「おっ、この場所なら大丈夫だ!」 真由美ちゃんは驚いた。 「ぅわ〜〜〜、何それ〜〜!?」 「面白いだろう!?」 「おもしろ〜〜〜い!」 真由美は、手を叩いて喜んだ。 「さっきは、それをやりたかったのね。」 「そうなんだよ〜〜〜!」 道に出ると、青い繋ぎ服を男が、『時は金なり、時給を上げろ!』の看板をを持って歩いていた。アキラは不思議そうに、それを見ていた。 「何、あれ?」 ヨコタンが答えた。 「時は金なり教です。」 「時は金なり教?」 男は歌っていた。 「時は金なり〜〜、ぼやぼやしてたら〜、あの世行き〜〜ぃ♪」 ここ高野山でも、時だけがとめどなく流れていた。山雀(やまがら)が忙(せわ)しなく時を泳いでいた。 まさとは、リアカーにプリンターを載せた。 「真由美、おまえも乗れ。」 「うん。」 まさとがリアカーの後部を下げると、真由美は楽しそうに乗り込んだ。
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