人間村の食堂に、龍次たちが来たとき、入口の近くのテーブルでヨコタンとアキラが座って、食事をしていた。龍次は、ヨコタンに軽く手を振った。ヨコタンも軽く手を振った。アキラは、龍次の後ろを歩いていたショーケンに気がついた。 「よっ、兄貴!」 「お前、早いなあ。」 「兄貴、これから?」 「ああ、そうだよ。」 「こっちに座んなよ。」 アキラの右隣が空いていた。ショーケンは軽く頷くと、そこに座った。食堂には、三十人ほど入っていた。 龍次は、食堂の賄(まかな)い場の女性を呼んだ。 「みっちゃん。栗ご飯、用意できてる?」 「はい、できてます。」 彼女は、いそいそと、栗ご飯の入っている折り詰めを三つ差し出した。 「はい。」 「ありがとう!」 龍次は、食堂から出ると、外で待っていた真由美とまさとに渡した。 「はい。栗ご飯が入ってるよ。」 真由美は、にこにこしながら折り詰めを見ていた。 「これ、いただいてもいいのかしら?」 「もちろんだよ。」 まさとは、頭を下げて受け取った。 「真由美、栗ご飯が好きなんです。ありがとうございます。」 「それは良かった。お母さんにもよろしくね。」 「はい。」「は〜〜い!」 真由美が兄のまさとを下から見上げた。 「あっ、そうだ。お兄ちゃん。保土ヶ谷さんに用があったんじゃないの?」 龍次は、それを聞いていた。 「なんだね、まさとくん?」 「あの〜ぅ、プリンターありませんか?動けば何でもいいんですけど。」 「ああ、あるよ。集会所にあるから持って行っていいよ。」 「ああそうですか!じゃあ遠慮なく持って行きます!」 「処分しようと思ってたんだよ。でも、旧式だよ。」 「何でもいいんです。動けば。」 「私じゃ分からないから、ヨコタンを呼ぼう。」 ちょうど、ヨコタンとアキラが出てきた。龍次はヨコタンに声を掛けた。 「あっ、ヨコタン。ちょっと頼みがあるんだけど。」 「なんでしょうか?」 「集会所に古いプリンターがあったでしょう?」 「はい。」 「まだあるよね?」 「はい、あります。」 「あれを、伊集院さんの家まで持って行くんだけど、確かぁ、ソフトをインストールしないと駄目なんだよね?」 「はい。」 「悪いけど、インストールしてくれない?」 「はい、分かりました。」 真由美が、手を上げて喜んだ。 「わ〜〜〜、良かったねぇ、お兄ちゃん!」 アイラが真由美の頭を撫でた。 「可愛いなあ、名前は何ていうの?」 真由美は、びっくりした。 「お兄ちゃんは、だあれ?」 「俺…、じゃなくって、僕はね、アキラ。」 「わたしは、真由美。」 「まゆみちゃんか〜〜〜、いい名前だなあ〜〜〜!」 「ありがとうございます。」 「プリンターくらいだったら、俺が持って行ってあげるよ。」 「いいんです。お兄ちゃんが、あのリアカーで持っていくんです。」 真由美は指差した。まさとが言葉を加えた。 「大丈夫です。あれで運びますから。」 「あっ、そう。」 ヨコタンが、集会所に向かって歩き出した。 「こっちにあるわ。ついてきて。」 その後を、アキラと伊集院の兄妹は歩き出した。 「真由美ちゃんは、可愛いなあ〜!」 アキラは妙なバックステップで後ろ向きに歩き出した。 「これ、マイケル!」 そう言うと、アキラは真由美ちゃんの前で転んだ。 「あいてててて!」 真由美ちゃっは、びっくりした。 「何してるのぉ?」 「あ〜〜あ、見せてあげたかったんだけどなあ、下がでこぼこしてるから駄目だぁ!」 そう言って、アキラは立ち上がった。 針葉樹の植物フェトンの爽やかな風が吹いていた。 前を歩いてるヨコタンが、両手を挙げて大きく伸びをした。 「ああ、いい風!」 まさとはリアカーを引いていた。 「高野山の風は、頭がすっきりしますよね。」 ヨコタンが振り向いた。 「そうね。どうしてか知ってる?」 「えっ、どうしてかって?分かりません。」 「杉や高野槙(こうやまき)のテレピンは、気分をすっきりさせる効果があるの。頭痛薬にも使われているのよ。」 「そうなんですかあ。」
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