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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第161回   臨兵闘者皆陣列在前
初秋の朝の太陽光が、どっかんどっかんと高野山に降り注いでいた。人々の魂にも、どっかんどっかんと降り注いでいた。遍照金剛(へんじょうこんごう)の高野山には邪悪な魂は無かった。
「ここって、腐った魂の臭いがしませんねえ。」
「腐った魂の臭い?」
「都会には、腐った魂の臭いがあって、吐き気のするときがあるんですよ。」
「それは身体に悪いですねえ。」
「わたしって、変なのかしら?」
「葛城さんて、霊感が強いのかも知れませんわ。」
「霊感が強いと、そういうのを感じるんですか?」
「そうらしいです。」
「他人の魂が見えすぎるんですね。」
「そうなのかなあ。」
「きっと、正義感が強いんですよ。根性の汚い人、嫌いでしょう?」
「大嫌い!ぅえ〜〜って、感じ!」
「わたしも。ぅえ〜〜って、感じ!」
二人は、顔を見合って大笑いした。前から後ろに通り過ぎて行ったお遍路さんが振り向いた。
「特に、感情音痴の人は、大っ嫌い!」
「わたしも。大っ嫌い!」
「顔を見てるだけで、吐き気がしてくるの。ぅえ〜〜って、感じ!」
「わたしも、そう。ぅえ〜〜って、感じ!」
二人は、顔を見合って大笑いした。近くを歩いていた僧侶が振り向いた。
「楽しそうですねえ。」
ふいに話しかけられたので、二人は戸惑った。
僧侶は微笑んでいた。
「見物ですか?」
姉さんが答えた。
「はい、そうです。」
「いいですねえ、若い人は。溌剌(はつらつ)としてて。」
姉さんは返事に困った。で、適当に答えた。
「ありがとうございます。」
「ゆっくりと見物して行ってください。」
そう言うと僧侶は、軽く頭を下げて急ぎ足で去って行った。
「溌剌(はつらつ)だって、懐かしい言葉だわ。」
「そうですねえ。」
金剛峰寺(こんごうぶじ)は、高野町の西側真ん中に位置していた。
「ここが、金剛峰寺(こんごうぶじ)。高野山の中心です。高野山真言宗の中心です。」
「凄い建物ですねえ…」
門の向こうに、大きな金剛峰寺(こんごうぶじ)が見えていた。
「この門、なんか古そう…」
「詳しくは知りませんが、金剛峯寺の建物の中で一番古いんだそうです。」
ミーンミーンミーン…
正門横の大きな高野槙(こうやまき)から、蝉の声が聞こえてきた。
「あっ、ミンミン蝉だわ。もう秋だと言うのに、変ねえ…」
きょん姉さんは、木を注意深く見た。
「あっ、あそこにいるわ。」
蝉は、高さ三メートルほどのところにとまっていた。蝉の声は止んだ。
アニーは苦笑した。
「あれは、時限式の蝉のおもちゃですよ。」
「えっ?」
「きっと子供のいたずらですよ。」
蝉は再び鳴き始めた。
「よくできてるなあ…」
「よく見てください。あれは太陽電池の羽ですよ。」
痩せた眼鏡をかけた、しかめっ面の男が通り過ぎていった。
「アニーが呟いた。」
「あの男…」
「どうしたの、アニーさん?」
「以前、いや〜〜〜な上司がいたの。そっくりだわ。」
「うぇ〜〜って感じの?」
「そう、うぇ〜〜って感じの。入る前に、邪気を払って行きましょう。」
「邪気?」
「九字を切ります。」
「はっ?」
アニーは、左手を軽く握り、右手の人差し指と中指をくつけて立てた。それを、左手の中に入れた。
「これは、右手が剣で、左手が鞘(さや)です。」
「剣と鞘?」
それから、アニーは指の剣を抜き上に立てる戸尾、大きく横に払った。
「臨(りん)!」
それから、大きく縦に払った。
「兵(びょう)!」
大きく横に払った。
「闘(とう)!」
大きく縦に払った。
「者(しゃ)!」
大きく横に払った。
「皆(かい)!」
大きく縦に払った。
「陣(じん)!」
大きく横に払った。
「烈(れつ)!」
大きく縦に払った。
「在(ざい)!」
大きく横に払った。
「前(ぜん)!」
最後に右手の剣を、右上から斜めに振り下ろし、左手の鞘に収めた。
「終わりました。これで大丈夫です。」
急な出来事に、きょん姉さんは唖然としていた。



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