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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第16回   縦列オート駐車ボタン
高野山(こうやさん)の西の入り口には、高さは二十五メートrの朱塗りの大きな門が建っていた。
「姉さん、大門です。」
門の両側の5メートルほどの仁王が、大きな目で下を睨んでいた。
「な〜〜んだか、しゃれたとこだね〜!」
「この前は、裏の通りでしたから。」
「そうだったの?」
大門の前の通りは、大阪方面からの道路が合流しているところだった。
「けっこう、渋滞してるんだねえ。」
「右が高野町の本通りです。ここだけは、一般車両も通れます。」
「左は?」
「左は大阪方面に行く高野山街道で、真っ直ぐが高野山駅に行く町道です、ここは通れません。」
「この前行った、ケーブルカーの駅ね。」
「そうです。」
水燃料自動車は、白い水蒸気を吐きながら、本通り向かって走り出した。
高野町は、高野六木(こうやりくぼく)という、スギ・ヒノキ・コウヤマキ・モミ・ツガ・アカマツの高い針葉樹に囲まれた町だった。
「大きな木が多いねえ〜。」
「高野山の樹木は、昔から伐採が禁じられていて、千年以上の杉も沢山あります。」
「すごいねえ。」
「昔のままの森なんですね。」
「さすが、世界遺産って森だねえ。町も道も綺麗だねえ。」
「この道は、国土交通省が選定した、日本の道百選に入ってます。」
「だろうねえ。なんだか、この世じゃないみたいなところだねえ。』
整備された2車線の道路と、桜やカエデの植えてある広い歩道を、多くの人々が歩いていた。
「人が、けっこう多いんだねえ。」
「5千人以上の人々が、この町に住んでいます。町は、東西約六キロ南北約三キロあります。」
「あそこに、高野山大学って書いてあるけど。」
「八百三十五年に朝廷の認可をうけた、有名な高野山大学です。」
「朝廷の認可かよ。凄い大学だなあ。」
「当時は、王朝貴族の高野山詣でが流行っていたそうです。」
「そうなの。このまま真っ直ぐで、いいのかい。」
「はい。」
「泊まるとこもあるんだろう。」
「宿坊ってところが、数多くあります。」
「しゅくぼう?」
「お寺の宿泊施設です。」
「普通の人でも泊まれるのかい?」
「はい。」
「お坊さんも、たくさん歩いてるね。」
「外国の観光客も多いですねえ。」
「あれ、コンビニもあるよ。」
「ほんとだ。」
「この辺りの地図、売ってるかなあ。」
「売ってると思いますけど。駐車場ありませんよ。」
「ちょっとだから、道の前でいいよ。待ってて。」
「あのスペースに止めるんですか?」
「そうだよ。」
コンビニの前には、自動車がぎっしり止まっていた。乗用車が一台入れるほどのスペースがあった。
「無理じゃないですか。ぶつかったら大変ですよ。」
「えへへ、どうかな?」
姉さんは、縦列オート駐車ボタンを押し、ハンドルを左に静かに倒した。
蛇は、前輪と後輪の向きを同時に変えながら、滑るように空いたスペースに上手に入って行った。
「ハンドルを倒して向きを決めれば、レーダーが障害物を感知して、勝手に駐車するの。」
「ふ〜〜〜ん。凄いなあ。」
「すぐ、戻ってくるから。」
「後輪が動くだけで、いろんなことができるんですねえ。」
「ポンコツのあんたにでも、できるよ。」
「そうりゃあないよ〜、姉さ〜〜ん!」
姉さんはドアを開けようとして、サイドミラーを見た。
「おっと!」
右側を、二人乗りのタンデムのオートバイが、通り過ぎて行った。
「あんた、買ってきて。」
「なんでもいいの?」
「なんでもいいよ。」
初秋の黄金色の夕陽が、高野山を染めていた。


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