高野山(こうやさん)の西の入り口には、高さは二十五メートrの朱塗りの大きな門が建っていた。 「姉さん、大門です。」 門の両側の5メートルほどの仁王が、大きな目で下を睨んでいた。 「な〜〜んだか、しゃれたとこだね〜!」 「この前は、裏の通りでしたから。」 「そうだったの?」 大門の前の通りは、大阪方面からの道路が合流しているところだった。 「けっこう、渋滞してるんだねえ。」 「右が高野町の本通りです。ここだけは、一般車両も通れます。」 「左は?」 「左は大阪方面に行く高野山街道で、真っ直ぐが高野山駅に行く町道です、ここは通れません。」 「この前行った、ケーブルカーの駅ね。」 「そうです。」 水燃料自動車は、白い水蒸気を吐きながら、本通り向かって走り出した。 高野町は、高野六木(こうやりくぼく)という、スギ・ヒノキ・コウヤマキ・モミ・ツガ・アカマツの高い針葉樹に囲まれた町だった。 「大きな木が多いねえ〜。」 「高野山の樹木は、昔から伐採が禁じられていて、千年以上の杉も沢山あります。」 「すごいねえ。」 「昔のままの森なんですね。」 「さすが、世界遺産って森だねえ。町も道も綺麗だねえ。」 「この道は、国土交通省が選定した、日本の道百選に入ってます。」 「だろうねえ。なんだか、この世じゃないみたいなところだねえ。』 整備された2車線の道路と、桜やカエデの植えてある広い歩道を、多くの人々が歩いていた。 「人が、けっこう多いんだねえ。」 「5千人以上の人々が、この町に住んでいます。町は、東西約六キロ南北約三キロあります。」 「あそこに、高野山大学って書いてあるけど。」 「八百三十五年に朝廷の認可をうけた、有名な高野山大学です。」 「朝廷の認可かよ。凄い大学だなあ。」 「当時は、王朝貴族の高野山詣でが流行っていたそうです。」 「そうなの。このまま真っ直ぐで、いいのかい。」 「はい。」 「泊まるとこもあるんだろう。」 「宿坊ってところが、数多くあります。」 「しゅくぼう?」 「お寺の宿泊施設です。」 「普通の人でも泊まれるのかい?」 「はい。」 「お坊さんも、たくさん歩いてるね。」 「外国の観光客も多いですねえ。」 「あれ、コンビニもあるよ。」 「ほんとだ。」 「この辺りの地図、売ってるかなあ。」 「売ってると思いますけど。駐車場ありませんよ。」 「ちょっとだから、道の前でいいよ。待ってて。」 「あのスペースに止めるんですか?」 「そうだよ。」 コンビニの前には、自動車がぎっしり止まっていた。乗用車が一台入れるほどのスペースがあった。 「無理じゃないですか。ぶつかったら大変ですよ。」 「えへへ、どうかな?」 姉さんは、縦列オート駐車ボタンを押し、ハンドルを左に静かに倒した。 蛇は、前輪と後輪の向きを同時に変えながら、滑るように空いたスペースに上手に入って行った。 「ハンドルを倒して向きを決めれば、レーダーが障害物を感知して、勝手に駐車するの。」 「ふ〜〜〜ん。凄いなあ。」 「すぐ、戻ってくるから。」 「後輪が動くだけで、いろんなことができるんですねえ。」 「ポンコツのあんたにでも、できるよ。」 「そうりゃあないよ〜、姉さ〜〜ん!」 姉さんはドアを開けようとして、サイドミラーを見た。 「おっと!」 右側を、二人乗りのタンデムのオートバイが、通り過ぎて行った。 「あんた、買ってきて。」 「なんでもいいの?」 「なんでもいいよ。」 初秋の黄金色の夕陽が、高野山を染めていた。
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