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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第159回   白旗の少女
スケートボードに紐をつけて、柴犬を乗せてやってくる若者が歩いてきた。若者は「おはようございます。」と言って、二人の横を通り過ぎて行った。きょん姉さんは柴犬をいつまでも見ていた。
「スケボーって、ああいう利用方法もあるのね。高野山の人って、やっぱり一味違うね。」
「時々、交代するんですよ。」
「交代?」
「人間が乗って、犬が引っ張るんですよ。」
「それって、面白いなあ〜。乗ってみたいなあ〜。高野山の人って、遊び心があっておもしろいなあ〜。」
高原の秋の蝶、黄色いキタキチョウが舞っていた。人間の背丈ほどの鉄の柵があり、開閉式の門があった。右側の門柱に、メロディ風車が回っていて、不思議なメロディを奏でていた。
アニーが可愛い声で囁(ささや)いた。
「あっ、これ、中島みゆきの歌だわ。」
姉さんは、その声に驚いた。
「どうしたんですか、妖精みたいな声を出して?」
「変な声でしたね。ときどきこの声になるんですよ。小さいときからなんですよ。何かとシンクロするとなるみたいなんです。」
「何かとシンクロ?」
「心の奥の何かが、自分以外の何かと一致すると、こうなっちゃうみたいなんです。」
「何かって?」
「それが、未だに分からないんです。」
「不思議ですねえ。」
「はい。誰かが、魂の同期と言っていましたが、そういう類いのものかも知れません。」
「妖精みたいな、とっても不思議な声でしたよ。」
「妖精の声って聞いたことあるんですか?」
「はい。夢の中でね。」
「妖精の夢や空を飛ぶ夢を見る人は、子供のように心が純真なんだそうですよ。」
「そうなんですかあ。」
「葛城さんは、とっても真っ直ぐな目をしてますわ。」
「そうですかねえ。」
「目は心の窓と言いますから、目を見れば分かります。」
アニーは歌い出した。
  雨が空を捨てる日は〜 忘れた昔が戸を叩く〜 ♪
「その歌知ってます。」そう言うと、姉さんも歌い出した。
  雨が空を見限って〜 わたしの心に降りしきる〜 ♪ 空は風色 溜め息模様〜 ♪
敷地の建物から、さっきと同じようなロボットが現れたので、二人は歌うのを止めた。ロボットは、さっきと同じ道案内ロボットだった。
「今日は当研究所は休みです。何か御用ですか?」
姉さんはがっかりした。
「あっ、そうか。今日は日曜だったわね。」
アニーが姉さんの顔を見た。
「一応、聞いてみたら?」
「そうですね。」
ロボットは、抑揚の無いロボットっぽい口調だった。
「どのような御用でしょうか?」
「ロボットのバッテリーを買いたいんです。」
「それだけですか?」
「はい。」
「どのようなバッテリーでしょうか?」
「旧型の補佐ロボットC型のバッテリーです。」
「残念ながら、そのタイプのバッテリーはありません。」
「やっぱりね。じゃあいいわ。」
「そうですか。さようなら。」
ロボットは行ってしまった。
「なんだよ、あいつ。最後の挨拶がなってないなあ。」
「会話能力が、まだ未完成なんじゃないですか?」
「ここは政府指定の所じゃないから、あっても駄目だわ。」
「そうなんですか?」
「政府認定マークがないんですよ。見たところ、どこにも。」
アニーは、門の周りを見渡した。
「そうですねえ…」
「高野山ですからねえ。」
「そうですね。」
「値段も高いし、もし変なものを買ってロボットを壊したら、弁償しなくていけませんから。」
「ああいうロボットって、高いんでしょう?」
「一千万とか。」
「そんなにするんですか!」
「アホなんですが、高いんですよ。」
「よく出来てますよ〜。」
アニーは空を見上げた。雲はほとんど無かった。
「さ〜〜ぁ、どこから行きましょうか?」
「そうですねえ…」
「じゃあ、近場から行きましょうか。」
「それがいいですね。」
二人は大通りに向かって歩き出した。前方から、木の枝の粗末な白旗を持った十歳くらいの少女が歩いてきた。
姉さんは首を傾げた。
「何かしら?」
近くに来たので、姉さんは尋ねた。
「何してるの?」
「白旗の少女です。」
「白旗の少女?」
「観て感動したんです。」
「だから真似してるんだ?」
「そうです。」
「映画?」
「そうです。」
少女は、言い終わると去って行った。
「白旗の少女って何だろう?」
アニーが答えた。
「沖縄戦争で、一人になった六歳の少女の話です。」
「実話なんですか?」
「はい。以前にドキュメンタリーで観たことがあります。わたしも感動しました。」
「わたしも観たいなあ。」
「きっと、映画になったんだわ。」
「インターネットで売っているかしら?」
「きっと売っていますよ。」
白旗の少女が振り向いた。そして小さく顔を隠すように手を振っていた。そよ風が白腹をゆらしていた。
アニーは微笑んだ。
「白旗の少女の真似をしてるわ。」




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