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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第157回   自分って何ですか?
ショーケンは、クリスタル・ヨコタンのことを思っていた。
『結局、男は女に惑わされ、女は男に惑わされ、生きているんだよなあ…、不思議だなあ人間って…、いったいこれは何なんだ?つまり、これが人間の原動力ってことか?神の罠ってやつか?』
クローン人間であるショーケンには、常に、人間を客観視する自分がいた。
作業所の前の広場では、真由美がカートに乗って喜んでいた。
「これなら、お母さんを下まで散歩につれて行けるね。」
カートを運転している兄のまさとが返事をした。
「そうだなあ。」
作業所の入口に佇(たたず)むロボットがいた。紋次郎だった。口に長い楊枝(ようじ)をくわえていた。
「あっ、紋ちゃんだ!」
真由美ちゃんは手を振った。
「紋ちゃ〜〜ん、おはよう〜!」
紋次郎も手を振った。
「真由美ちゃ〜〜ん、おはよう〜でござんす!」
「お兄ちゃん、紋ちゃんのところまで行って。」
「あいよ。」
カートは紋次郎の前で止まった。
「大丈夫、紋ちゃん。足は良くなった?」
「紋次郎は、左足を少し浮かせていた。」
「良くなってないよ。」
「どうして良くなってないの?」
「部品が無いんだよ。」
龍次がやって来た。
「そうだ、高野山テクノロジー研究所の人に尋ねてみよう。ひょっとしたら、あるかも知れない。」
真由美が龍次の顔を見た。
「ほんと?」
「あるかも知れない。」
真由美は紋次郎の顔を見た。
「あるといいね、紋ちゃん。」
「あるかな〜。」
「きっとあるわよ。元気を出しなよ。」
「うん、元気を出すよ。」
紋次郎は、少し元気な顔を見せた。ショーケンがやって来た。紋次郎のくわえている長い楊枝を見た。
「なんだい、その長い楊枝は?」
「おかしいですか?」
「また、変な時代劇でも観たんだろう。」
「昨晩、みんなが帰ったあとで、木枯し紋次郎を見ました。」
「だと思ったよ。」
龍次が紋次郎に諭すように言った。
「もう少し、ここで休んでいてよ。」
紋次郎は素直に返事した。
「はい。」
龍次は紋次郎の肩を叩いた。
「ひとりで寂しいとは思うけど。」
「ロボットに寂しいとかはありませんから。」
「あっ、そうか。」そう言うと、龍次は真由美とまさとを見た。
「君たち、朝ごはん食べたの?」
真由美が答えた。
「まだで〜〜す。」
「じゃあ、一緒に食堂に行こう!今日は栗ご飯だよ。」
まさとが龍次に言った。
「僕たち、母が食事の用意をして待ってますので、いいです。」
「あっ、そうか。じゃあ、栗ご飯だけ持って行って。」
「はい。ありがとうございます。」
真由美が、龍次にねだった。
「これに乗って行ってもいいかしら?」
「あっ、いいよ。じゃあ、僕がリアカーを持って行ってあげよう。」
「ばんざ〜〜い!」
まさとが叱った。
「真由美、調子に乗るんじゃないよ。」
龍次は優しかった。
「いいんですよ。真由美ちゃんが喜んでくれたら。」
「そうですか〜、すみませ〜ん。」
龍次は、ショーケンにも声をかけた。
「ショーケンさん、行きましょう。」
「あっ、はい。」
そう言うと、龍次は、リアカーを取りに行った。龍次がリアカーを引いて戻って来ると、カートは食堂に向かって走り出した。
ショーケンが紋次郎の肩をポンと叩いた。
「おまえさあ、そんなに無理せずに、もっと自分に素直に生きたほうがいいんじゃないの?」
「自分に素直に?」
「つまりさあ、ロボットはロボットらしく。ロボットはロボットでいいじゃないか。無理して人間にならなくっても。」
「ロボットはロボットらしく?」
「つまり、自分らしくだよ。」
「自分らしく?」
「分からない?」
「自分って何ですか?」
自分というものがないロボットの紋次郎には、その言葉の意味がまったく分からなかった。


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