20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第155回   優しい風が吹いていた
「仕事は、自然にポンとそこにあるものではなくって、発明があって産業になって仕事が産まれるのです。」
「はい。」
「仕事をするときに、発明家に感謝したことがありますか?電車やクルマに乗っているときに、発明家に感謝していますか?」
「いいえ。」
「豚や牛は、あなたを生かすために死んで行ったのです。豚や牛に感謝していますか?」
「いいえ。」
「わたしたちが、文明によって楽して生きて行かれるのは、先人たちの知恵のおかげなのです。先人たちの知恵に感謝していますか?」
「いいえ。」
「だったら、すぐに心を入れ替えて感謝しなさい。きっと彼等が、あなたを助けてくれます。必ず、いいことがあります。」
「はい。」
「高野山に、からくり発明神社があります。そこに参って行きなさい。きっと新たな考えが浮かび、あなたを導いてくれます。」
「はい。」
「そこに、発明家でもあった弘法大師・空海が祭ってあります。参って行きなさい。きっと頑(かたく)な魂も救われます。」
「はい。」
昨夜の自殺を考えてた男は、深く頭を下げた。
「いろいろと、ありがとうございました。」
背を向け、一歩踏み出した。振り向いた。
「あのう、その神社はどこにあるんでしょうか?」
「高野山中学の隣の、高野山テクノロジー研究所の隣にあります。そこの道を真っ直ぐ三百メートルはど行って右に曲がって歩いて行けば見えて来るよ。誰かに聞けば、すぐに分かります。」
「どうもありがとうございました。」
「もし、また死にたくなったら、ここに来なさい。わたしは毎週の土日にはここにいますから。」
老人は名刺を差し出した。男は黙って受け取った。
「日本知恵教…」
名刺には、住所と電話番号も印刷されていた。
老人は、心配そうに微笑んでいた。
「人間村に行きたくなったら、その名刺を保土ヶ谷君に見せて訳を話しなさい。」
「はい。」
「その近くに、高野山疲労研究所という有名なところがあります。わたしの名刺を見せて、サンプルのビタミン剤をもらって行きなさい。よく効くんだ、ここのは。」
「分かりました。いろいろとありがとうございます。」
男は深く頭を下げ、去って行った。老人は呟いた。
「これからは、大変な時代だなあ。」
男を見送っていると、コスモス花壇の脇の道から二人の若い女性がやってきた。一人は老人に手を振っていた。
「萩原さ〜〜ん、おはようございま〜す。」
葛城今日子、きょん姉さんだった。
老人は笑顔で返した。
「おはよう。早くからお出かけですか?」
「はい。山内見物を。」
高野山には、高原の花が咲き、高原の爽やかな風が吹いていた。お喋りの山雀(やまがら)がさえずっていた。
アニーは、頭を下げて挨拶をした。
「おはようございます。同じログハウスのアニーと言う者です。よろしくおねがいします。」
「こちらこそよろしく。なんだか、コスモスの花みたいに美しい人だなあ。」
姉さんが答えた。
「えっ、わたしのことですか?」
「勿論、あなたもですよ。」
「萩原さんは、お世辞が上手いですねえ〜。」
「お世辞ではありませんよ〜。あれっ、あのロボットはいないんですか?」
「福之助は留守番なんです。目立ちますから。」
「なるほどね。」
「それに、ちょっとバッテリーの調子がおかしいんです。」
「ロボットのバッテリーなら、高野山テクノロジー研究所にあると思うよ。」
「わ〜〜、それは良かった。」
アニーが質問した。
「高野山テクノロジー研究所?」
「今年、からくり発明神社と一緒にできたんですよ。」
「ああ、そうなんですか。初めて聞きました。」
「中学校の近くにあります。中に入ると、弘法大師が錫杖(しゃくじょう)を持ち上げて迎えてくれますよ。」
「おもしろそうですねえ。」
「弘法大師が発明した、いろんな物が展示してあります。」
「弘法大師が発明した?」
「弘法大師は、発明家でもあったんです。」
きょん姉さんが、思い出したように質問した。
「昨夜の方は?」
「今しがた、少し元気になって帰って行きました。」
「そうですか。それは良かったわ。」
「きっと、今の人達は行き場を失っているんでしょうね。」
「なんだか、寂しい顔をしてたわ。」
「そうですね。きっと身も心も疲れてるんでしょうね。」
「黙ってたら、誰も助けてくれませんからね。」
「そうなんだよね。きっと周りの人達も、余裕がなくなってるんだろうね。」
緑の高原には、優しい風が吹いていた。



← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 32722