真由美は踊るのを、ぴたっと止めて、龍次に質問した。 「高野山カートって、二人乗れるんですか?お兄ちゃんと?」 龍次は優しく答えた。 「乗れるよ。二人乗りだよ。第二作業所にあるから見せてあげよう。」 「えっ、ほうと。」 龍次は、ショーケンに尋ねた。 「ショーケンさんも見ます?」 「見たいですねえ。」 「こっちです。」 龍次は歩き出した。第二作業所は、作業所の奥にあった。龍次がドアを開けて入って行くと、真由美も、まさともショーケンも入って行った。 窓明かりだけでは少し暗かったので、龍次は電灯を点けた。部屋の中ほどまで進むと指差した。 「これです。」 真由美が、一番にやってきた。 「わ〜〜〜、かっこいい〜!」 「かっこいいでしょう。」 「触ってもいいかしら?」 「いいよ。」 真由美は触った。 「わ〜〜〜!」 「ほら、座席が二つあるだろう。」 「ほんとだ。これなら、お兄ちゃんと乗れるね。」 「乗れるさ。」 「わ〜〜〜、早く乗りたいなあ〜!」 「乗ってごらん。」 「乗っていいの?」 「乗っていいよ。」 真由美は左側のハンドルのない席に乗り込んだ。」 「わ〜〜〜ぁ!これで降りていくのね。」 「登っても行くんだよ。」 「わ〜〜〜ぁ。なんてことでしょう!」 真由美は後ろを見た。 「どうして左側は何にもないの?」 カートは、右側にバッテリーとモーターと制御装置が搭載されていて膨らんでいた。左側は物を積めるようにくぼんでいた。 「真由美の座席を上げると、自転車が積めるんだよ。」 「ふ〜〜〜ん。」 「ちょっと降りてごらん。」 真由美が降りると、龍次は左側の椅子を持ち上げた。カチャっと音がした。 「ほらね。ここに乗せられるだろう。」 「じゃあ、お兄ちゃんの自転車も乗せられるんだあ〜。」 「そうだよ。」 「登ってくるときは、楽でいいね。」 「これで、高野山スライダー族も喜ぶぞ。」 ショーケンが質問した。 「高野山スライダー族って何ですか?」 「高野山から、マウンテンバイクで山野を駆け下りていく高野山ライダーのことです。」 「あ〜、そういうのがいるんだ。」 「高野山は、スライダー族のメッカなんですよ。」 「スライダー族のメッカ?」 「高野山には、それぞれに変化と富んでいる地・水・火・風・空・識という走り道があって、走り方も異なり色々と楽しめるんです。」 「ちーすい…、何ですか、それ?」 「地の天狗道・水の天狗道・火の天狗道・風の天狗道・空の天狗道・識の天狗道です。これを、高野山のスライダー六天狗道といいます。ちなみに、空の天狗道は龍神スカイラインのことです。」 「高野山には、いろんなものがあるんだなあ。さすが、世界遺産の高野山だ。」 「森を見ながら、森の風をうけながら野山を駆け下りるのは、気持ちよくって、精神的にも、足腰の筋力やのバランス感覚を養うのにも、とってもいいんですよ。」 「今、それ流行ってるんですか?」 「はい。とっても流行ってます。きっと、不健康な現代社会に気が付いたんでしょうね。利口な人達ですね。」 「いいことですね。」 「そうですね。」 まさとは、感心した様子でカートを見ていた。龍次が促した。 「ちょっと乗ってみない。動くよ。」 「えっ、いいんですか?」 「いいよ。真由美ちゃんも一緒に乗ってごらん。」 「わ〜〜、これ動くの〜!」 真由美は急いで喜んで乗り込んだ。まさとはハンドルの付いている右側の席に乗り込んだ。 「右側のを踏めばいいんですか?」 「そう。右側がアクセル、左側がブレーキ。ゆっくり踏んでね。」 「はい。」 モーター音がすると、カートはゆっくりと動き出した。 真由美が喜んだ。 「わ〜〜〜ぁ、動いた〜!」 龍次が言った。 「外に出て行っていいよ。」 カートは外に出て行った。
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