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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第152回   スライダーカート
人間村の集会所の前に、八十人ほどのニート革命軍の連中が集まっていた。彼らの前には、ニート革命軍の最高幹部・保土ヶ谷龍次が立っていた。
「今日は、新しくできたカート専用道路を、高野山テクノロジー研究所と我々の研究開発チームが開発した、スライダーカートで実験走行を行う日です。」
みんなは、真剣な顔で黙って聞いていた。前列には、研究開発チームの五人がいた。クリスタル・ヨコタンも、そのうちの一人だった。
「詳しいことは、人間環境工学博士であるスライダーカート担当主任の一休さんから。」
一休さんが前に出てきた。龍次は一歩下がった。
「ようやく待ちに待った、丹生都比売神社(にうつひめじんじゃ)までのカート専用道路が完成しました。」
龍次は手を叩いた。みんなも手を叩いた。
「産業革命と資本主義により、テクノロジーは人間性を無視したイノベーションとして発達してきました。われわれは、ここから大きく変革して、自らも変革して、地球環境に優しく、人間に適した社会を築いていかねばなりません。未来の子供のために。」
みんなは、真剣な顔で黙って聞いていた。後列には、ショーケンとアキラがいた。
「クルマ社会は、便利さと一緒に、交通事故や排気ガスを生み、そして、人々の健康を、楽という甘い蜜で奪っています。我々は、自らを律しなければなりません。自らを新しい社会に導かねばなりません。今、必要なのは何でしょうか。それは人間らしい生き方です。人間や地球に優しいイノベーションです。殺伐としたイノベーションではありません。科学だけでは人間は生きていけません。人間の心が必要です。他人を思いやる心、自然に感謝する心、つまり哲学と宗教が必要なのです。競争だけの社会は、憎しみだけを生んでいます。ほんとうの人間になるために、高野山を基点にして、一つ一つ、みんなで変えて行きましょう。」
龍次は拍手をした。みんなも拍手をした。
「ご存知のように、丹生都比売神社(にうつひめじんじゃ)は、高野山の守り神です。」
龍次が「ああ、そうなの。」と発言した。みんなは笑った。話は続いた。
「これによって、丹生都姫と弘法大師が結ばれたということですから、実に意義のある素晴らしいことです。」
龍次は拍手をした。みんなも拍手をした。一番後ろにいたアキラとショーケンも拍手をした。
「兄貴、ここには博士とか、凄いやつがいるねえ。」
「そうだなあ。」
「みんなが、やり手に見えてきたよ。」
彼の話は続いた。
「今日の走行は、来週に開通する前の、試し走行です。よって、不具合などが出るかも知れません。大丈夫だとは思いますが、なにしろ長距離なので、何が起きるかは分かりません。」
みんなは、真剣な顔で黙って聞いていた。
「今日の試し走行は、高野山テクノロジー研究所が十人、われわれから十人、高野山警察から六人、合計二十六人です。われわれからは、研究開発チームの五人が全員が試乗することになっていますが、あと五人必要です。誰か乗りたい人いますか?」
前列にいた鶴丸隼人が質問した。
「それ、操作は簡単なんでしょうか?」
「簡単です。」
「スピードはどのくらい出るんですか?」
「時速十キロまでです。」
「たった十キロ?」
「歩くように景色を見ながらの走行が目的ですから。」
「ああ、そういうことか。」
「景観を眺めて心を癒したり、マイナスイオンの風をうけての森林浴とか、そういうことが目的なんです。」
「つまり、子供の乗る遊びのカートじゃなくって、情緒を感じながらゆっくり走る大人のカートってことですね。」
「まあ、そういうことかな。高野山は子供の来るところではありませんから。」
「文学的芸術的な人間回帰のカートってことですね。」
「そういうことです。」
「情緒を感じない幼稚な大人もいますよ。」
「そういう方は来なくてもいいのです。むしろ迷惑ですから。」
「スライダーカートと普通のカートは、どこが違うんですか?」
「下りは動力を使わない、ブレーキ熱の出ない制動充電機構になっているんです。」
「回生充電機能ってやつですね。」
「おお、詳しいですねえ。」
「工業高校出ですから、そのくらいは知ってます。」
「他に質問は?」
「ありません。」
「他の方は?」
みんなは黙っていた。
「ご存知だとは思いますが、カート専用道路は、当初は天軸山公園の脇から通る予定でしたが、予算の都合で、大門から四八〇号線を併用することになりました。ただし花坂交差点手前から、専用道路に接続されます。まだ完成していないので、今日の走行は花坂交差点でユーターンして大門まで戻ってくることになってます。この間、クルマの走行は通行止めになります。来週からは、時間制になって、昼間だけカート専用道路になります。今日の試し走行に参加されたい方は手を上げてください。」
アキラが手を上げた。
「はい!」
ショーケンは手を上げなかった。



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