きょん姉さんは、ログハウスに入る前に両手を挙げて、大きく深呼吸をした。隣には福之助がいた。 「ここの風は、饅頭(まんじゅう)を食べた後の寂しさに似てるなあ。」 「はぁ〜あ?」 姉さんは静かにドアを開けた。そして入って行った。福之助も入って行った。 アニーはテーブルの前に座ってテレビを見ていた。天気予報をやっていた。アニーは、すっかり元気になっていた。 姉さんはアニーの前に座った。 「今朝の気分はどうですか?」 アニーは、にこっと笑った。 「とってもいいです。熱もありません。」 「良かったわ〜。」 「ニューフルーじゃなくて良かった。」 「ニューフルー?」 「新型インフルエンザ。」 「アメリカでは、ニューフルーって言うんですか?」 「インフルエンザのことを、略してフルーって言うんですよ。」 「フルーですか、覚えとこう。」 福之助が、姉さんの横に遠慮しながら座った。 「わたしも覚えておきます。」 朝食はテーブルの上に並べられていた。 「これか、サラダってやつは。」 「はい。」 アニーが声をかけた。 「パンが温かいうちに頂きましょうか。」 「そうですね。」 福之助がポットを指差した。 ポットに温かいコーヒーが入っています。 「ああ、そうなの。」 テーブルの上には、牛乳のパックも置いてあった。 「福之助、お祈りして。」 福之助は手を合わせた。 「いただきま〜〜す。」 姉さんとアニーも手を合わせた。 「いただきま〜〜す。」「いただきま〜〜す。」 朝食が始まった。 福之助が、にたっと笑った。 「みなさん、もし、朝食がなかったら何と言うでしょうか?」 姉さんが福之助の顔を見た。 「なんだよ〜、いきなり?」 「問題です。」 「食べてるのに。分からないよ、そんなの。」 アニーも同じように言った。 「分からないわ。」 福之助は得意げに答えた。 「朝食抜きで、超ショック!」 姉さんは感心した。 「お〜〜、いいねえ。おまえ今日は冴(さ)えてるねえ。」 アニーも褒めた。 「素晴らしいわ、それ。」 福之助は得意げな顔をしていた。 「えへん。では、もう一問。」 姉さんが戒(いまし)めた。 「もういいよ。すぐ調子にのるんだから!」 「はい。」 「食べ終わるまで黙ってろ。」 「はい!」 アニーはサラダを食べた後に言った。 「福ちゃん、これとっても美味しいわ。」 福之助は黙っていた。 姉さんが福之助を睨んだ。 「返事くらいしろよ。」 福之助は目を大きく見開いて返事をした。 「はい、ありがとうございます。今、黙ってろって言われたもんですから。」 「融通が利かないやつだなあ。」 テレビでは、おもいやり予算のニュースをやっていた。 アニーが牛乳パックを取りながら言った。 「おもいやり予算を、世界遺産の地域にあげればいいのにね。」 「世界遺産の地域って、高野山とかですか?」 「はい。そしたら、地域が整備されて観光客も増えて、仕事も増えて潤うんじゃないかしら。」 「う〜ん、そうですねえ。」 姉さんはパンをかじりながら、窓の外を見ながらニュースを聞いていた。 「あれ何かしら?」 「どうしたんですか?」 アニーも振り向いて、窓の外を見た。 「肩に担いで歩いてる人ですか?」 「はい。」 「あれは、模型ボブスレーです。」 「模型ボブスレー?」 「天軸山(てんじくさん)に模型ボブスレー場があるんですよ。」 「あれを、上から滑らすんですか?」 「はい。氷の上ではないので車輪もついています。」 「面白そうですね。」 「弘法大師杯という大会もあるんですよ。規定範囲内で自由に作ってもいいんですよ。」 「賞金とかも出るんですか?」 「はい。」 「冬はやってないんですか?」 「冬もやってますよ。と言うより、冬の車輪のない模型ボブスレーが先なんです。」 「あ〜、なるほど。」 「後で、見に行きましょうか?」 「いいんですか?」 「今日の仕事は、高野山内の探索ですから。」 福之助が、黙って頷(うなず)いていた。
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