20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第150回   高野山カート
草花は、お日様を浴びて、爽やかな風にそよいで、よいよいよいと大いにはしゃいでいた。
真由美の目の前で、トンボがくるりと宙返りをした。
「お上手、お上手!」
真由美は手を叩いて喜んだ。
お兄ちゃんがリアカーを引きながら振り向いた。
「どうしたの、真由美?」
「トンボが宙返りしたの。」
「なんだ、そんなことか。」
大きな縦長の物を肩に担いだ青年が歩いていた。まさとは足を止めて、担いでいる物を見た。青年は通り過ぎて行った。
「あっ、来週は天軸山(てんじくさん)の模型ボブスレー大会の日だなあ。」
「そうだねえ。あれ面白いね。」
「後で見に行くか。」
「そうだねえ。」
「弘法大師杯がかかっているからなあ。」
「お金も貰えるしね。」
「みんな賞金目当てだな。」
「そうだね。」
「テレビにも映るしな。」
「そうだね。」
「保土ヶ谷さん、食堂にいるかなあ?」
「いるといいね。」
「まだ六時になってないからなあ。」
「そうだね。じゃあいないかもね。」
川沿いの人間村の食堂は、五分くらいのところにあった。
まさとは食堂の前でリアカーを止めた。
「真由美、降りろ!」
「は〜い。」
真由美が降りると、まさとはトマトの入ったダンボールを持って食堂に入っていった。
「おはようございま〜す!」
食堂では、エプロンをした五人が忙しそうに働いていた。一人の女性が出てきた。
「おはよう。」
「トマト、持ってきました。」
「あっ、そこに置いておいて。」
「保土ヶ谷さん、いますか?」
「保土ヶ谷さんは、たぶん事務所。」
「あつ、そうですか。」
まさとは出て行こうとした。彼女が呼び止めた。
「帰りに寄ってね。栗ご飯あげるから。」
「あっ、はい。」
「今日は、試走(しそう)をかねて、かつらぎまで行くらしいわよ。」
「しそうって?試しに走るって書く、試走ですか?」
「そうです。」
「高野山(こうやさん)カートの?」
「そうです。」
「つまり、実験台ってことか?」
「そうですね。」
「あれは面白いですよ。きっと流行りますよ。」
「そうかしら?」
「若い人がやってきますよ。」
「若い人は喜ぶかもね。」
「年配の方も、きっと喜びますよ。のんびりと景色を見ながら下りますから。俺も乗ってみたいなあ。」
「頼んでみたら?」
「何時に行くんですか?」
「七時に、ここを出るって言ってたわよ。高野山テクノロジー研究所の人達と。」
「ああそうですか。とにかく言ってみます。」
「後で寄ってね。忘れないで。」
「はい。」
高野山の鐘が六時を告げて鳴り響いていた。ほぼ同時に、食堂の棚にあった、弘法大師人形時計が、右手に持っている錫杖(しゃくじょう)を何度も持ち上げて、シャクシャクと鳴らしながら時を告げていた。
まさとは驚いた。
「ぅわ〜〜、これ時計だったんだ!」
「いいでしょう。」
「いいなあ、これ。どこにあるの?」
「まだ売ってないんですよ。試作品なんです。」
「いいなあ、これ。」
「試作品なら、作業場にありますよ。いろいろと。」
「いろいろと?」
「高野四郎の鐘時計とか。」
「いいなあ、それ。」
「見に行けば?」
「後で見に行きます。」
「栗ご飯、忘れないでね。」
「はい。」
まさとは食堂から出て行った。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 32722