二人を乗せた、水燃料自動車・サイドワインダーは、高野山(こうやさん)に向かっていた。 「どんどん山奥に入って行っちゃうけど、この道で、大丈夫なの。」 「大丈夫です。高野山は、山奥の山奥なんです。」 道路の右側に、二十メートルほどの幅の川が現れた。 「綺麗な川だねえ。」 「有田川です。もうすぐ二川ダムです。」 「有田(ありだ)みかんの、有田川ね。」 「食べ物には、詳しいんですねえ。」 福之助は、カーナビを見ていた。 「まだなの、高野山(こうやさん)は?」 「有名な蘭島(あらぎしま)の棚田を過ぎると、高野山の大門に着きます。」 色んな形をした棚田が見えてきた。 「あれだね、その棚田ってのは。」 福之助は、カーナビの説明文を見ていた。 「はい。江戸時代の初期からあるそうです。」 棚田は、大きく蛇行する川に沿ってきれいな円弧を描いていた。 「昔の人は、よく作ったもんだねえ…」 棚田の上には、<あらぎの里>という大きな店があった。 姉さんは、思わず店の駐車場に自動車(クルマ)を止めた。 「せっかく来たんだから、ちょっとだけ見て行こう。」 「はい。」 店には、こんにゃくや手作り豆腐、特産のぶどう山椒などが売られていた。姉さんは、<笹巻あんぷ>に目が行った。 生麩独特のもちっとした風味とほのかに香る笹の香りに包まれた高野山の歴史あるお土産、よもぎを混ぜた餡(あん)を、麩(ふ)で包み、熊笹で巻いたもの。と書いてあった。 「ふ〜〜ん。」 姉さんは、隣でぼ〜っと立っている福之助の顔を見た。 「おまえも食べてみるかい?」 「わたしは、ロボットですから。」 「あっ、そうか。すぐ忘れちゃうんだよねえ、おまえがロボットってことを。」 「わたしに遠慮しないで、食べてください。」 「麩(ふ)って、何なの?」 「グルテンという、小麦粉のタンパク質です。」 「タンパク質なの〜?ああ、そうなんだ、ちっとも知らなかった!』 姉さんは、お店のお姉さんに注文した。 「これを、二個と、温かい高野山緑茶をください。」 「ありがとうございます。」 注文したものは直ぐに出てきた。お金を払うと、姉さんは、展望台に行き、<笹巻あんぷ>を食べながら、しばらく棚田を眺めた。五分ほど眺めていると、少し風が強くなってきた。 「少し、風が出てきたね。」 「そうですね。」 「もう、行こうか。」 「はい。」 「このあたり、杉が多いんだねえ。」 「あれは、杉に似た、高野槇(こうやまき)という木です。」 「ああ、そうなの。」 高野山から、針葉樹独特の木の香りの風が吹いていた。 二人は、ガラガラ蛇に乗り込んだ。 「この風景に、蛇は似合ってるよ。いよいよ、高野山だね。」 「はい。」 ガラガラ蛇は、ガラガラガラと言って走り出した。 きょん姉さんの心には、キッスの熱い曲が流れ、赤鬼のような形相のジーン・シモンズの、ワンテンポ遅れのベース音が鳴り響いていた。I was made for loving you ! 「ヘビーメタルな風が吹いてるぜぇ〜!」 「お〜〜〜!」
僕らは知っている 夕焼けの美しさを 頬を撫でる風の切なさを
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