兄と妹は、鉄筋のアクリルハウスの中にいた。 「お兄ちゃん、いい天気になったわねえ。」 「そうだなあ。」 「これ、赤くなってるよ。」 真由美は、目の上のトマトを指差した。 「おお、いいなあ。」 まさとがやってきて、持ってたハサミを軽く入れ、左手で丁寧にもぎ取った。ダンボールの箱に静かに入れた。 「これで、四十六個だな。」 トマトは木のテーブルの上で育っていた。 「お兄ちゃん、どうして高いところで育てるの?」 「どうしてって?」 「土の上で育てればいいじゃない。そしたら、わたしにも取れるわ。」 「土の上は駄目なんだよ。」 「どうして?」 「土だと虫がつくだろう。」 「ふ〜〜ん。」 「それに、雨が降ったら水浸しになるだろう。」 「そうだね。」 「トマトは、雨が嫌いなんだよ。」 「ふ〜〜ん。」 「トマトはね、アンデスいう雨の少ないところで生まれたんだよ。だから雨に弱いんだよ。」 「ふ〜〜ん。」 「雨が多いとね、病気にるんだよ。」 「ふ〜〜ん。」 「病気になって腐ったら、いやだろう。」 「うん。」 真由美は不思議そうな顔で質問した。 「その箱の中には、何が入っているの?」 まさとは指差した。 「この中か?」 「うん。」 「土の代わりに、ヤシ殻というのが入っているんだよ。」 「やしがら?」 「土のにせものだな。」 「ふ〜〜ん、それで大丈夫なの?」 「大丈夫だよ。これだと虫もつかないし、病気にもならない。」 「ふ〜〜ん。」 まさとは発砲スチロールに繋がってるパイプを指差した。 「ここに流れてるもので、トマトは大きくなるんだよ。」 「ふ〜〜ん、よくできてるねえ。」 「よくできてるだろう。」 「お父さんが、一人で考えて作ったの?」 「そうだよ。」 「お父さんは、えらいなあ〜。」 「頭が良かったんだぞ。」 「そうだね〜。」 まさとはトマトを取るのを止めた。 「よし、これで五十個だ。」 「保土ヶ谷さんのところに持っていくの?」 「ああ。」 「一個七十円?」 「そうだよ。」 「保土ヶ谷さんが、栗ご飯をあげるって言ってたわ。」 「そうだったな。」 「保土ヶ谷さん、もう起きてるよね。」 「もう起きてるよ。リアカー持って来るから、ここで待ってろ。」 「うん。」 ハウスの隅っこに給水タンクと肥料タンクがあり、その上に父の写真が掛けてあった。真由美が、その写真を見ていると、まさとが戻ってきた。 「真由美、行くぞ。」 「うん。」 「おまえも乗れ。」 「うん。」 まさとは、トマトの入ったダンボール箱をリアカーに載せた。真由美は、父の写真に手を振った。 「お父さん、行ってきま〜す!」
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