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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第144回   はぐれ雲
地球は、一秒の狂いもなく休みなく動いていた。月も同じように、地球のおっとり妻のように甲斐甲斐しく動いていた。はぐれ雲が、恥ずかしがりやの月を、ときどき隠していた。それは、何億年前から、何十億年前からのことだった。生物たちは、何気にそれを知っていたし、悟っていた。月などを見ない、科学というちゃちなものに、のぼせあがった人間だけが、それを悟っていなかった。
熊の五郎が立ち去ると、忍は門の中に入った。
みんなが寄ってきた。五十人ほどの人数だった。
「忍さん大丈夫!?」
みんなも同じようなこと言っていた。忍は少し笑いながら答えた。
「大丈夫だよ。」
龍次が近くにやって来た。
「いったい、どうしたの?」
忍は、右足を少し浮かせていた。
「大根畑の近くに案山子(かかし)を立てに行ったら、いきなり五朗が現れて、無理やりに相撲をとらされたんですよ。そしたら投げ飛ばされちゃって、このありさまです。」
「それじゃあ、わたしと同じだ。」
「強いのなんのって、凄い力でしたよ。」
「二百キロは、あるからなあ。」
「ありゃあ、人間じゃあ無理ですよ。」
「まわしがないと無理だなあ。」
「まわし?」
「つかむところだよ。」
「そんなの、あっても無理ですよ。」
「そうかなあ〜?」
龍次は、悔しそうな目つきで、五郎の去った方向を見た。
「むかしのわたしだったらなあ…」
「龍次さん、またやろうと思ってるんですか?」
「まあね。」
「無理だって!」
ヨコタンが、忍の隣に寄ってきた。
「足、大丈夫?」
「さっきよりは、大丈夫みたい。」
「歩けるの?」
忍は歩いてみせた。
「あっ、痛い!」
そう言うと、歩くのを止めた。
「こりゃ駄目だ。」
「明日、病院に行ったほうがいいわ。」
「でも、明日は日曜日だよ。」
「あっ、そうか。」
「きっと、明日になったら治ってるよ。」
「そうかなあ…」
「足首だけ?」
「そうみたい。」
「あんまり動かさないほうがいいかも。」
「そうだね。」
龍次が隊員に命じた。
「元看護婦のポンポコリンを呼んできてくれ。」
一人の隊員が「はい!」と返事をすると集会所に向かって駆け出した。
「誰か、肩をかしてやってくれ。」
二人の男の隊員が出てきた。しのぶの両サイドについた。
忍は、軽く礼を言った。
「ありがとう!」
龍次は、みんなに命じた。
「あとの者は、もういいよ。各自それぞれの場所に戻ってくれ!」
ヨコタンが質問した。
「わたしもですか?」
「何かありますか?」
「いや、別に。」
「それじゃあ、いいです。」
「はい、分かりました。」
龍次が少し大きな声で、みんなに言った。
「明日は、六時に集会所前に集合ですよ。」
みんなは、ほぼ同時に返事をした。
「はい!」
みんなは、それぞれにそれぞれの足取りで、自分の居場所に向かって散って行った。高野四郎の鐘が、午後の十時を高野山に告げていた。遠くで、熊の遠吠えが聞こえた。今しがた散ったそれぞれの人達は、空を見上げた。月の前をちぎれた逸(はぐ)れ雲が泳いでいた。その頃、熊の五郎も、のっしのっしと歩きながら月の前のちぎれた逸れ(はぐ)雲を見ていた。


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