遊び好きの雲が、ほらほらの風に追いかけられていた。だけどももよ、ほらほらの風にもめげずに、不動谷川はせせらぎを演奏して、しゃんそんしゃんそんとシャンソンを奏でているんだよ。カエルがときどき、ゲロゲロっとおどけるように伴奏したりしてさ。そこでは、生物たちが、大地のリズムに逆らわずに必死で生きていたりしてさ。 アキラは、土手を降りながら、パトカーが去った道の方向を見ていた。 「ああいう馬鹿は、北朝鮮や中国では、死刑だよな。」 ショーケンは、アキアの後ろからゆっくりと足元を確認しながら用心深く降りてきた。 「公開処刑だな。」 「こうかいうしょけい?」 「みんなの見てる前で銃殺だよ。」 「オ〜〜、ノ〜!」 クリスタル。ヨコタンは風になびく髪を右手で押さえながら土手の下で立っていた。 「昔の日本だったら、市中引き回しのうえ首切り死罪ってやつですね。」 アキラが尋ねた。 「しちゅうひきまわし?」 「大通りを歩かせて、さらし者にするんですよ。」 「オ〜〜、ノ〜!」 土手の上から黒いものが現れた。三人は、ほぼ同時に土手の上を見た。熊だった。 ヨコタンが叫んだ。 「五郎だわ!」 三人は人間村の門に向かって走り出した。人間村の門までは百メートルほどだった。すぐに着いた。 龍次たちが佇んでいた。三人が門の中に入ると、ヨコタンが龍次たちに大声で言った。 「五郎よ〜!熊の五郎よ〜!早く門を閉めて〜!」 驚いた隊員たちが、急いでスライド式の鉄の門を閉めた。 熊の五郎は、門に向かってのっしのっしと歩いていた。ずうたいが黒色なので、目だけが光って見えていた。 龍次たちは、門の中からおそるおそる黙って見ていた。突然、熊が喋った。 「みんな〜!」 龍次たちは驚いた。 熊が門に近づくと、熊の背に誰か人が乗っているのが見えた。 誰かが叫んだ。 「人が乗ってるぞ!」 熊の背に乗っている者が大声で喋った。 「俺だよ、しのぶだよ〜!」 甲賀忍だった。 熊は、門の前で止まった。熊は、門の中の龍次を見ていた。 ヨコタンが口を開いた。 「どうしたの、しのぶさん?」 「足をくじいて、歩けなくなって、五郎に助けてもらったんだよ。」 「え〜〜〜!?」 みんなも驚いていた。龍次が尋ねた。 「どういうこと?」 「相撲とって投げ飛ばされちゃって、足をくじいて動けなくなったら、こいつがやってきて乗れってことで、こうなっちゃったんだよ。」 「そうなのかね?」 みんなは、不思議そうな顔で熊の五郎を見ていた。 五郎は、膝をついて身を屈めた。 忍は五郎の横顔を覗きこんだ。 「降りろってことね?」 そう言うと、五郎から静かに降りた。 「五郎、ありがとう!」 五郎は四つ足で立ち上がった。 龍次は、「ありがとう、五郎!」と言うと、手を振った。 五郎は、「ゥオ〜!」と吠えた。そして、来た道に向かった反転した。 慌てて、ヨコタンが叫んだ。 「五郎〜、ちょっと待ってぇ!」 五郎は止まった。 ヨコタンは塀越しに五朗の近くまで駆け寄ると、手に持っていたフランスパンを、五郎に向かって投げた。 「どうも、ありがと〜〜ぅ!」 五郎は、フランスパンを咥(くわ)えると山奥に向かって去っていった。
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