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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第142回   ツクツク法師
ほらほらほらの風が、ほらほらほらと、小さな昆虫たちを脅かしながら吹いていた。昆虫たちは、飛ばされまいと、鳴くのを我慢して必死に草花にしがみついていた。そのうちに風が止むのを待っていた。風に逆らう馬鹿な昆虫はいなかった。昆虫たちは、人間の知らない風を見ていた。ほらほらほらの風が、ほらほらほらと高野山を吹いていた。
きょん姉さんは、アニーの横に座った。テーブルの上を、大きな秋になる前の小さな秋が跳ねていた。
「あっ、コオロギだわ。」
コオロギは、トマトの上に止まった。
「久し振りだわ〜、コオロギだなんて。」
福之助がやってきて、コオロギを見た。
「お〜〜〜、コオロギだ!きっと、風に追われたんですね。」
コオロギは、トマトの上でじっとしていた。
「取っちゃ駄目よ。昆虫はすぐに脚が取れるからね。」
「はい。」
「地球は、人間だけが生きているわけじゃないんだよね。」
「はい。」
アニーは、冷静な顔で、そして若干の鋭い視線でパソコンの画面を見ていた。
「高野山悟りプログラムを、ネットで調べてみましょう。」
アニーはブラインドタッチで素早く指を動かした。姉さんは驚いた。
「わ〜〜、早いなあ!」
「小さい頃から、英文タイプをやってたもので。」
「凄いなあ〜。」
「あっ、出ました。」
姉さんは、横から画面を覗きこんだ。福之助も立ったままの姿勢で、腰を屈めて覗き込んだ。
アニーは、福之助を呼んだ。
「福ちゃん、ここに来て。」
福之助は素直に応じた。
「はい。」
「いたずらプログラムだわ。ウイルスではないけど、思考回路がおかしくなるって書いてあるわ。」
「えっ!?」
「削除すれば大丈夫って書いてあるわ。」
「そうですか?」
「削除するから、ケーブルでパソコンと繋いでちょうだい。」
「無理です。外からは削除できません。」
「ああ、そうなの?」
「わたしが、わたし自身がやらないと削除できないんです。だから、わたしがやります。」
「ああ、そう。」
「高野山悟りプログラムを削除すればいいんですね?」
「そうよ。」
「分かりました。」
天井から、蝉(せみ)の鳴き声がした。
「あっ、トッポジージョだ!やけに聞こえるなあ。このログハウスの中にいるのかしら?」
きょん姉さんは周りを見た。
福之助が、天井の丸太の梁(はり)あたりを見ながら答えた。
「あの鳴き声は、ツクツクボウシです。」
「知ってるよ。ちゃんと削除したの?」
「しました!」
「これで大丈夫ね。」
「はい!これで大丈夫です。」
「ほんとかなあ?」
姉さんは、福之助の目を見て睨んだ。福之助は、姉さんの目を睨み返した。
「つまり、プログラムがプロブレムだったんですね。」
姉さんは喜んだ。
「お〜〜〜、そのくだらない駄洒落!間違いなく、アホの福之助だ〜!」
「それって、喜んでいいのでしょうか?」
「いいんだよ!」
アニーは手を叩いて喜んだ。
「良かったわ〜〜!」
またも、天井から蝉の鳴き声が響いていた。アニーは見上げた。
「ツクツクボウシは、ケチなお坊さんの生まれ変わりなんですよ。」
姉さんは初耳だった。
「ケチなお坊さんの生まれ変わり?」
アニーは、タイプした。
「ツクツク法師って書くんです。」
「ツクツクボウシって、こう書くんだ〜。」
いつの間にか、トマトの上のコオロギはいなくなっていた。そのことを、誰も気に留める者はなかった。そんなことは、どうでも良かった。コオロギはいったいどこに行ったのだろう?そんなことはどうでも良かった。


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