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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第141回   高野山悟りプログラム
アニーは姉さんに尋ねた。
「あの人、大丈夫だったんですか?」
「あまり大丈夫じゃなかったんですけど、隣の方が面倒をみてくださるってことで。」
「あまり大丈夫じゃなかったって?」
「リストラされて、死にたいって言ってました。」
「そうだったんですか。」
「話してるうちに、元気になりました。」
「それは良かったわ。」
きょん姉さんは、思い出したように話を変えた。
「福之助。」
「なんですか?」
「お相撲さんは、座るときに、何と言って座るでしょうか?」
「何?」
「お相撲さんは、何と言って座るでしょうか?」
「うん?」
「早く答えなよ。舌が暇になるから。」
「はあ?」
「早く!」
「…よいしょ。じゃないですか?」
「ぶ〜〜〜〜〜!」
「じゃあ、どっこいしょ。」
「ぶ〜〜〜〜〜!」
「分かりません。」
「答えは、どすこいしょ!」
「どすこいしょ?」
「面白いだろう〜?」
「なんで?」
「なんで?」
「どうして面白いんですか?」
「相撲取りは、どすこいどすこいって言うだろう。」
「そうなんですか?」
「知らないの?」
「はい、知りません。」
「あ〜〜〜あ、つまんない奴。」
「あ〜〜〜あ、つまんない問題。」
「何が、あ〜〜〜あ、だよ。」
「では、わたしが面白い問題を出しましょう。」
「おまえが?」
「はい。よろしいですか?」
「ああ、いいよ。」
「ライオンは、大きなマグロの肉は食べませんでした。では、鯨の肉は食べるでしょうか?」
「くじら?」
「ヒント、鯨は魚類ではありません。哺乳類です。」
「あ〜〜〜、じゃあ食べる。かもな…」
「かもな、では答えになりません。きっぱりと断言してください。」
「…、やっぱり食べない!」
「ブ〜〜〜!」
「え〜〜〜、食べるの〜!?」
「分かりません。」
「なんだ!?」
「わたしが、今作った問題なので分からないんです。哺乳類だから、ひょっとして食べるんじゃないかな〜と思って。食べたら面白いんじゃないかな〜と思って、作ったんです。」
「なんだよ〜、それ!?じゃあ、問題でも何でもないじゃないか!」
「答えなんか、どうでもいいじゃないですか。面白い問題だったら。」
「何言ってんだよ、おまえ!?」
「あ〜〜〜、面白かった。」
「ちっとも面白くないよ。おまえ、やっぱり変だよ。」
「何がですか?」
「頭が変だよ。」
「大切なのは、問題そのものです。答えではありません。答えは問題の死でしかありません。だから答えなんか無いほうがいいのです。それは人生と同じです。人生も答えなんかないほうがいいのです。」
「こりゃ〜大変だ。やっぱり明日、病院に行こう!」
「大丈夫ですよ。」
「大丈夫じゃないよ〜!」
「大丈夫ですよ〜!」
「ロボット保険証もってきたか?」
「はい。お腹に、ちゃんとしまってあります。」
「見せてみろ。」
「いいですよ。」
福之助は、腹部の蓋をカパっっと左手で開けると、右手で取り出した。
「はい。」
「これは、ロボット厚生年金手帳だよ。」
「あっ、そうですか。」
「ほら、見てみろ。」
姉さんは、福之助の目の前に手を伸ばして、手帳を見せた。
「見えません。ちょっと離してください。」
「なんだ、二十九歳で老眼かよ。」
「老眼じゃありませんよ。機能が落ちてるだけです。」
「それを老眼って言うの。」
「あっ、そうなんですか?」
「ま〜だ、二十九だぞ。」
「二十九歳で老眼で、悪かったね!」
「あらっ、怒ったの?」
「別に。」
姉さんは、少し離して見せた。
「見えました。あっ、ほんとだ。」
再度、手袋みたいな手の指で確認した。
「あっ、もう一つあります。はい!」
しっかりと差し出した。
「これこれ!」
「姉さん、そのロボット厚生年金手帳、返してください。大切なものですから。」
「はいよ。」
姉さんは、丁寧に手渡した。
「これがないと、定年後に大変なことになりますからね。ホームレスロボットはいやですからね。」
「なんで、ロボット厚生年金手帳まで持ち運んでんだよ?必要ないだろう?」
「そうですねえ。」
「やっぱり、馬鹿だね。」
「そりゃあないよ、姉さん!」
「よっし、明日行くぞ!」
「じゃあ、行きますか。ところで、高野山にロボット病院はあるんですか?」
アニーは、お茶を飲んでいた。丁寧にテーブルに置いた。
「ありますよ。」
姉さんは笑顔になった。
「あ〜、良かった〜ぁ。」
アニーはパソコンを見ながら呟(つぶや)いた。
「福之助さん、変なファイルをダウンロードしなかった?」
福之助が答えた。
「さ〜〜あ、記憶がないです。」
姉さんは、険(けわ)しい表情になって、福之助を睨んだ。
「記憶がないって、どういうことだよ?」
「その部分だけ、消えているんです。」
「なんだって!?」
「福ちゃん、ダウンロード履歴を赤外線でパソコンに送ってくれない。」
「はい。」
福之助は黙って、命令に従った。
「履歴は改ざんできなくなってるはずだから、それを見れば分かると思うわ。」
姉さんも、思い出したように合槌をうった。
「ああ、そうですね。」
パソコンに、福之助から送られた履歴ファイルが映し出された。
「あっ、十八時十七分三十八秒にダウンロードしてるわ。」
「何ですか?」
「…高野山悟りプログラム。」
「こうやさんさとりプログラム!」
福之助は、目の前の空を見つめ寄り目になっていた。
「記憶にないな〜。」



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