ざっくばらんな風が、ざっくバランスに吹いていた。永久(とわ)にある時間の中で、果たして時間は永久(とわ)にあるのだろうか。そんなことは、今を生きているものにはどうでも良かった。今があれば、そんなことはどうでもいいことだった。時間は前に進んでいるのだろうけど、いったいそれがどうしたって言うんだい。と、風がそう言いながら吹いているみたいだった。だから、寂しがり屋の風はとってもとっても饒舌(じょうぜつ)だった。いつも、寂しがり屋の風は、不動の大地に甘えながら、ざっくバランスに吹いていた。競い合いながら、ざっくバランスに吹いていた。 きょん姉さんが、ログハウスのドアを開け、中に入ると、いきなり何者かが横から奇声を発して襲ってきた。 「空(す)きあり〜〜!」 きょn姉さんは、とっさに身を屈めて相手の懐(ふところ)に入って投げ飛ばした。 相手は、ドタンと後方に尻餅をついて倒れこんだ。福之助だった。手にアルミのホウキを持っていた。 「なあんだ、おまえかぁ!」 「あたたたたた。姉さん、投げ飛ばさなくってもいいじゃないですかぁ〜。」 「ごめんごめん。つい反射的にでたんだよ。」 アニーが拍手をしていた。 「お見事!合気道の極意、入り身投げですね!」 「えっ?これ紅流の投げ技なんですよ。」 「ああ、そうなんですかあ。」 福之助は立ち上がった。 「あ〜〜〜あ、やらなきゃ良かった!」 姉さんが睨みつけた。 「おまえねえ、わたしがポンコツみたいに殴られるわけないだろう!」 「ポンコツ?」 「あんたのことだよ。」 「そりゃあないよ、姉さん!」 「わたしは、武道の達人なんだよ。」 「忘れていました。」 「もう一回投げ飛ばしてやろうか?」 「もうけっこうです!」 「三十歳もなったロボットがやることじゃないだろう。子供に馬鹿にされるぞ。」 「さんじゅう?」 「三十歳じゃなかったっけ?」 「まだ、二十九歳五ヵ月十七日六時間十九分五十二秒ですよ!」 「あっ、そうだったっけ?」 「失礼しちゃうなあ。」 「そんなことはどうでもいい。とにかく大のロボットがやることじゃないだろう。」 「だいのロボット?何のことですか?大きいって意味ですか?私は大型ロボットじゃありませんよ。」 「歳を考えてやれってことよ。」 「わたしがですか?歳を考えて?」 「そういうこと。」 「ロボットに歳があるんですか?」 「あるじゃないか。毎年毎年、歳をとって老けて行くだろう。」 「老けはしませんよ。劣化はしてますけど。」 「それだよ。同じじゃないか。」 「わたしは、人間じゃありません。そういう論理は間違ってます。」 「何が?」 「人間の行動を、ロボットにそのまま当てはめるのはおかしいです。」 「屁理屈ロボットだなあ〜。」 「屁理屈じゃありませんよ。」 アニーが笑い出した。 「あなたたちの会話、とっても面白いわ。漫才とかいいんじゃないかしら?」 姉さんが答えた。 「ロボットと人間の漫才ですか?」 「はい。人間と人間より面白いですよ。」 福之助が答えた。 「姉さん、この仕事辞めて、やりましょうか?きょん姉さアンド福之助ってどうでしょう?」 福之助の目は鋭く、冗談ではなかった。
|
|