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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第139回   人間
高野山(こうやさん)を、風たちが強くなったり弱くなったりの、まるで遊び呆けてるように駆けていた。ときおり、ひゅ〜ひゅ〜と奇声を発しながらのことだった。草花たちはその奇声の下で、風たちの横暴を見上げながら、黙って揺れていた。それは、いつものことだった。ひたすら、風に折れまいとして頑張っていた。蟻たちは、その下で文句も言わずに、黙々と昆虫の死骸を運びながら働いているのだろうか。
老人は、ベンチに座りチューハイを飲みながら月を見ていた。
「最近の人は、なんだか当たり前のことで悩むよね。」
姉さんは、屈伸運動を始めた。
「あっ、どうしたの?」
「えっ、ちょっと寒くなったもので。」
「そうだね…」
「当たり前のことって、何ですか?」
「なんていうか、自分だけで生きているんだよね。だから、自分に似た人としか話さないし、群れない。」
男は大きく頷いた。
「その通りです。」
老人は話を続けた。
「昔の人間はね、誰とでも話してたんだよ。ちゃんと相手のことを考えてね。最近の人は、そういう基本的なことができないみたいだね。人は、いろんな人と話して苦しんで心が成長するんですよ。」
姉さんもベンチに座った。
「心が成長してないってことですね。心が未熟ってことですね。」
「そう。」
「そうですねえ。」
「自分だけで生きている。だから、自分だけで苦しんで、未熟だから耐えられずに精神の病気になってしまう。」
「うん、なるほど。」
「自分に素直になって、他人にも素直になれば、解決することなんだけどね。」
「きっと、それが出来ないんですよ。」
「そういうことだね。人間は、人と間(あいだ)って書くでしょう。交わって人間になるんですよ。決して一人では人間にはなれない。」
男がポンと手を打った。
「なるほど!」
姉さんは、黙っていた。ログハウスの窓が開いて、福之助が手を振っていた。
「姉さん〜〜〜!何してるんですか〜!」
「あっ、福之助が呼んでる。」
姉さんは、ぴょんとジャンプして立ち上がった。老人は驚いた。
「お〜〜、まるでウサギみたいだなあ。」
「えっ、そうですか?」
「何かやってたんでしょう?陸上とか?」
「はい。」
「道理で。足腰が強そうだもん。」
「短距離と走り高跳びをやっていました。」
「そぉお、早そうな脚してるね。」
福之助が手を振っていた。
「姉さん〜〜〜!何してるんですか〜!」
「この人、大丈夫かな?」
「私のログハウスに泊まらせるよ。大丈夫!」
老人は、勝手に決めていた。
「大丈夫です。」
「じゃあ、わたしは失礼します!」
「おやすみ!」
「おやすみなさ〜い!」
男も、「お休みなさ〜い!」と言った。
姉さんは、膝ほどの垣根をウサギのようにぴょんと飛び越えると、猟犬のようにログハウスに向かってダッシュした。老人は驚いた。
「お〜〜〜〜〜!」
男も驚いた。
「早いなあ〜〜!」
「この暗闇を走り抜けるとは、目もいいなあ。」
「まるで、忍者みたいですね。」
「そうだなあ。」
人間に踏まれまいとして、木の枝にジャンプして逃げた鈴虫が、二人が去るのを風を見ながら待っていた。





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