男は笑った。老人は缶チューハイを旨そうに飲んでいた。 「いい笑顔じゃないか、君!」 「そうですか?ありがとうございます。」 「笑顔で接すると、相手も笑顔になる。大切なことだよ。」 「はい。」 「怒った顔で接する奴だと、君だって嫌だろう。」 「はい。」 「単純なことなんだよ。人生は。難しいことではない。いい笑顔してるよ、君は。ねえ、お姉さん?」 老人は、きょん姉さんの肩を軽くポンと叩いた。姉さんは、ちょっとびっくりした。 「ちょっと、飲みすぎではないですか?」 「ま〜ぁだ、まだ。今夜は飲みますよ〜!」 老人は、姉さんを見ながら首をひねっていた。 「お姉さんの名前、何だったかなあ?」 きょん姉さんは、教えるように答えた。 「葛城(かつらぎ)です。」 「あ〜、思い出した!葛城(かつらぎ)さんだ!」 姉さんは、父を見ているようで、いたって笑顔だった。 「あなた、心理学か何かやってたの?」 「いいえ、別に。」 「どうして分かったの?」 「えっ?」 「この人のこと?」 「う〜〜〜ん、何でなんでしょう?」 男が質問した。 「えっ、何のことですか?」 「びっくりしないでくださいよ。」 「はい。」 「死神が、あなたの背後にいたんですよ。」 「え〜〜〜!」 「さっきまでね。釜を持って。」 姉さんも、びっくりした。 「え〜〜〜、そうなんですか?」 「はい。」 「だから、来たんですか?」 「そうです。死ぬことを考えると、死神は直ぐにやって来るんですよ。」 男は、真剣な眼差しになり、目の前の宙を睨んでいた。 「…確かに、死にたいと思っていました。」 「やっぱり。」 老人は、姉さんに尋ねた。 「死神を見て来たんじゃないんだ?」 「はい。」 「じゃあ、どうして?」 「なんとなく、危ないと思って。」 「危ない…」 「はい。」 「それは、凄い能力だ。昔からですか?」 「そう言われれば、そうかも知れません。」 「例えば?」 「小学生の頃、死体を発見したことがあるんです。」 「死体を?」 「父と山に遊びに行ったときに、父に、お父さん、近くで人が呼んでるわって言ったら、人が死んでたんです。」 「…それは、きっと、霊感が強いんだよ。」 「そうかも知れません。」 男が不安気に助けを求めるように、二人に尋ねた。 「あの〜〜〜ぅ、死神は、もういないんですね。」 老人が答えた。 「もういないよ。死のうなんて思ったら、また来るよ。」 「はい。絶対に思いません!」 「死神が、肩を叩いたら、それまでだからね。」 「えっ!?」 「あの世行き!」 姉さんは驚いた。 「えっ、そうなんですか!?」 「死神の肩叩きって言うんだよ。」 「死神の肩叩き…」 男は、少し震えていた。顔が青ざめていた。 「お〜〜、怖!」 ドングリの実が、男の右肩に落ちた。男は驚いて立ち上がった。 「お〜〜〜、びっくりした!」 老人と姉さんは、男を見ながら笑った。風は少し止んでいた。
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