秋の寂しがりやな、でもね強(したた)かな夜風が吹いていた。 子供のように好奇心の強い姉さんは窓辺に座り、寂しがり屋の風と何かを見ていた。 「アニーさん、もう風邪は大丈夫なの?」 アニーは少し遅れて答えた。 「ええ、大丈夫です。熱も下がったみたいだし。」 「それは良かった。変な人がいるんですよ。」 「えっ?」 「こっちに見に来てくれません?」 「はい。」 アニーは立ち上がると直ぐにやって来た。 姉さんは指差した。 「あの人。」 男だった。木の下に座り、タバコを吸っていた。 「どこが変なんですか?」 「何か感じません?」 「…別に。」 「わたし、こういう仕事しているせいか、分かるんですよ。」 「えっ?」 「心の病んでる人が。直感的に。」 「あの人がですか?」 「ええ。」 その男は、寂しげに月を眺めていた。 姉さんは強く、そして深く呟いた。 「あの人、危ないわ。」 「危ない?」 「放ておくと、きっと死ぬわ。」 「えっ!?」 そういい残すと、姉さんは上着を着て出て行った。 その男は、大きな椎(しい)の木の下で煙草をふかしていた。 姉さんは、静かに近寄ると、静かに声を掛けた。 「こんばんわ。」 男は姉さんを見ると、小さな低い声で答えた。 「こんばんわ。」 気の弱そうな、四十前後の男だった。 「どうしたんですか?」 「えっ?」 「悩み事でもあるんですか?」 「…別に。」 「そういう顔してますよ。」 「…別に。」 「実は私、人の心が読めるんです。何でも話してください。」 「…人の心が読める?」 「はい。」 「ほんと?」 「はい。」 男は皮肉っぽく笑った。 「ふふふ、面白い人ですねえ。」 「何でも話してくださいよ。」 「面白い人だなあ。」 「この近くですか、お住まいは?」 「神戸です。」 「神戸!」 「見物に来ただけです。」 「高野山をですか?」 「ええ。」 「お一人でですか?」 「ええ。」 「高野山はいいところですよね。」 「まあね。」 男の目は深く沈み込むように寂しかった。 「これからどこへ?」 「どこへって、そんなことどうでもいいでしょう。」 隣のログハウスの絵描きの老人がやって来た。 「こんばんわ。」 姉さんは、とっても笑顔で挨拶を返した。 「こんばんわ。」 男は、迷惑そうな表情で黙っていた。 老人が男に、ぽつりと言った。 「お主、居場所を失くしたな。」 男は、老人の目を覗き込むように見ると、睨みつけた。
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