パトロールロボット・ごんたが通り過ぎた後、クリスタル・ヨコタンが右手に何かを持って、長い髪を華麗になびかせながら駆けてやってきた。 土手の上で、ショーケンが軽く手を振った。アキラも真似をして軽く手を振った。 ヨコタンは、彼らの下で止まった。 「五郎が出てくるわ。早く人間村に戻って。」 ショーケンは首を傾げた。 「ごろう?」 アキラが質問した。 「ごろうって、何?」 「熊の五郎。この辺りのボス熊で、夜遅くなると出てくるの。」 ショーケンは驚いた。 「ほんと?」 「ほんとうよ。」 アキラが質問した。 「大きいの、その熊は?」 「とっても大きいわ。二百キロはあるわ。」 「人を襲うの?」 「そんなことはしないけど、一緒に遊ばないと怒るわ。」 「え〜〜〜、何それ?」 「遊び好きなの。人間をからかって遊ぶのが好きなの。」 「なんだ〜〜、そりゃあ?」 「一緒に遊ばないと怒りだして、投げ飛ばすの。」 「投げ飛ばす?」 「相撲が好きなのよ。」 ショーケンが皮肉っぽく笑った。 「まるで、金太郎の熊だなあ。」 ヨコタンの表情は真剣だった。 「早く!そこまで来てるかも知れないわ。」 ヨコタンは、右手に大きいフランスパンを持っていた。 ショーケンは、そのパンを見ながら尋ねた。 「それ、フランスパンだよね?」 「そうよ。」 「どうするの?」 「五郎の好物なの。出てきたらあげるの。その空きに逃げるの。」 「そんなの食べるの?」 「食べるわ。」 「今まで、襲われたことがあるんだ。」 「あるわ。」 「え〜〜〜、どうなったの!?」 「お尻を撫でて逃げて行ったわ。」 「エッチな熊だなあ。で、それだけ?」 「女性には、からかうだけで乱暴しないの。バイバイしながら去って行くの。」 「変な熊だなあ。」 アキラは笑っていた。 「面白い熊だなあ〜。相撲したくなってきたよ。」 ヨコタンが軽く叱(しか)った。 「怪我した人もいるんですよ。」 「じょうだん、じょうだん。」 「あなたが、アキラさん?」 「そうです。」 「はじめまして、ヨコタンと言います。よろしく。」 「こちらこそ、そろしくぅ〜!」 ヨコタンは微笑した。 「イメージ通りの人だわ。」 「えっ、えっ、それって、俺のこと?」 「はい。」 「どういう風に?」 「後で話します。とにかく危ないから急いで帰りましょう!」 アキラは、すっと立ち上がった。その後で、ショーケンも臆病な小動物のように周りを見ながら静かに立ち上がった。 「猿狩り小次郎の次は、熊の五郎か…、忙しいところだなあ。」
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