高野山の高原を、ジョギング程度の風が自由気ままに、ひょひょいのひょいと走っていた。 「人間って、遠くを見るわけでもなく、ただ目の前を見てるときがあるよね。」 「それはなぁ、たぶん風を見てるんだよ。」 「風を?」 「風と言うか、空気を見てるんだよ。」 「空気を?」 「無意識に、一番大切なものを見てるんだよ。」 「いちばん大切なもの?」 「人間だけじゃなくって他の動物も、ときどき立ち止まって見てるよ。」 「空気を?」 「ああ。」 「どういうこと?」 「水は無くっても、しばらくは生きて行けるだろう。空気は無くなったら、すぐに死んでしまう。だから一番大切なんだよ。」 「なあるほどぉ!」 「当たり前のことだから、みんな気がつかないんだよ。」 「そういうのに気が付くって、やっぱ兄貴は凄いや。」 「引力に気が付かないのと同じだよ。」 「そっか〜〜。」 「大切なものは、故意に強く意識しないと見えてこないんだよ。」 「なあるほどぉ、ねえ。」 「深く考えれば、誰でも分かる答えだよ。」 「いい答えだなあ。」 「ある日、死に損ないのコピー人間が思いついた答えだよ。」 「えっ?」 二人の目の前を、宅配便のニューエナジーカーが通り過ぎて行った。 「おっ、天狗の宅急便だ。」 「高野山にぴったりの宅急便だなあ。なんだか、高野山も普通のところなんだなあ。」 「お墓の方に向かってるよ。幽霊にでも届けるのかなあ?」 「おまえ、ときどき面白いこと言うねえ〜〜。」 お墓に延びる道の両サイドには、やわらかい灯篭の光りが、慈悲の灯火(ともしび)のように道を照らしていた。 二人の目の前を、マウッテンスケボーに乗った三人の若者が通り過ぎて行った。 ショーケンの目は彼らを追っていた。 「なんだいありゃあ?」 アキラが、その問いに即座に答えた。 「兄貴、知らないの?あれはマウンテンスケボーってやつだよ。」 「そんなのがあんのかよ?」 それは、スケボーの両サイドに大きなタイヤが付いたものだった。 「野山でやるスケボーだよ。」 「あんなことまでして乗りたいのかねえ?」 「乗りたいんじゃないの。」 「いっそうのこと、モーターでも付ければいいんじゃないか?」 「そうだねえ。でもそれじゃあ、スポーツにならないんじゃないの。」 「そうかなあ?」 遠くの山で稲妻が光っていた。アキラは、その稲妻に目をやった。 「嵐が来るのかなあ?」 「来やしないよ。」 「なんで分かんの?」 「嵐が来るときには、ムササビは下りて来ないんだよ。臆病だから。」 「あ〜、そうなの。」 街路灯のない闇の道を、不気味なものが近づいてきた。アキラは驚いた。 「なんだありゃあ!?」 前照灯を光らせ、赤色灯を回転させながら、銀色の車体は徐々に近づいてきた。窓などはなかった。 ショーケンは冷静だった。 「あれは、パトロールロボット・ゴン太だよ。」 「パトロールロボット・ごんた?」
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