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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第131回   天狗の宅急便
高野山の高原を、ジョギング程度の風が自由気ままに、ひょひょいのひょいと走っていた。
「人間って、遠くを見るわけでもなく、ただ目の前を見てるときがあるよね。」
「それはなぁ、たぶん風を見てるんだよ。」
「風を?」
「風と言うか、空気を見てるんだよ。」
「空気を?」
「無意識に、一番大切なものを見てるんだよ。」
「いちばん大切なもの?」
「人間だけじゃなくって他の動物も、ときどき立ち止まって見てるよ。」
「空気を?」
「ああ。」
「どういうこと?」
「水は無くっても、しばらくは生きて行けるだろう。空気は無くなったら、すぐに死んでしまう。だから一番大切なんだよ。」
「なあるほどぉ!」
「当たり前のことだから、みんな気がつかないんだよ。」
「そういうのに気が付くって、やっぱ兄貴は凄いや。」
「引力に気が付かないのと同じだよ。」
「そっか〜〜。」
「大切なものは、故意に強く意識しないと見えてこないんだよ。」
「なあるほどぉ、ねえ。」
「深く考えれば、誰でも分かる答えだよ。」
「いい答えだなあ。」
「ある日、死に損ないのコピー人間が思いついた答えだよ。」
「えっ?」
二人の目の前を、宅配便のニューエナジーカーが通り過ぎて行った。
「おっ、天狗の宅急便だ。」
「高野山にぴったりの宅急便だなあ。なんだか、高野山も普通のところなんだなあ。」
「お墓の方に向かってるよ。幽霊にでも届けるのかなあ?」
「おまえ、ときどき面白いこと言うねえ〜〜。」
お墓に延びる道の両サイドには、やわらかい灯篭の光りが、慈悲の灯火(ともしび)のように道を照らしていた。
二人の目の前を、マウッテンスケボーに乗った三人の若者が通り過ぎて行った。
ショーケンの目は彼らを追っていた。
「なんだいありゃあ?」
アキラが、その問いに即座に答えた。
「兄貴、知らないの?あれはマウンテンスケボーってやつだよ。」
「そんなのがあんのかよ?」
それは、スケボーの両サイドに大きなタイヤが付いたものだった。
「野山でやるスケボーだよ。」
「あんなことまでして乗りたいのかねえ?」
「乗りたいんじゃないの。」
「いっそうのこと、モーターでも付ければいいんじゃないか?」
「そうだねえ。でもそれじゃあ、スポーツにならないんじゃないの。」
「そうかなあ?」
遠くの山で稲妻が光っていた。アキラは、その稲妻に目をやった。
「嵐が来るのかなあ?」
「来やしないよ。」
「なんで分かんの?」
「嵐が来るときには、ムササビは下りて来ないんだよ。臆病だから。」
「あ〜、そうなの。」
街路灯のない闇の道を、不気味なものが近づいてきた。アキラは驚いた。
「なんだありゃあ!?」
前照灯を光らせ、赤色灯を回転させながら、銀色の車体は徐々に近づいてきた。窓などはなかった。
ショーケンは冷静だった。
「あれは、パトロールロボット・ゴン太だよ。」
「パトロールロボット・ごんた?」


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