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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第130回   極秘指名手配
「なんだ、ありゃあ!?」
アキラは、やや遠くの大きな木を指差した。
木と木の間を、何かが飛んでいた。
「あ〜、あれか。あれはな、ムササビだよ。」
「ムササビ?」
「そうだよ。おまえ、見たことないの?」
「見たことないよ。はじめてだよ。」
「ああ、そう。夜行性だから、夕方から夜が明けるまで飛び回っているんだよ。」
「あ〜、そうなの。」
「山から、餌を食べに来るんだよ。」
「何を食べに来るの?」
「木の実とか、だな。」
「兄貴は、よく知ってるねえ。」
「大菩薩の山育ちだからな。大菩薩にもいたよ、ムササビ。」
「あ〜、そうなの。」
「こうやって、土手の上に座って一人で月を眺めていると、よくやって来たなぁ〜。」
ショーケンは思い出したように、月を見ていた。
「あいつら、臆病だから、雨が降ると遠くには飛ばないんだよ。」
「なんで?」
「雨が振ると、枝が濡れるだろう。つかみそこなって、おっこちるんだよ。」
「だから飛ばないんだ。」
「ムササビは人を見るんだよ。」
「人を見るって?」
「気に入らない人間には近寄らないんだよ。」
「いつごろの話よ?」
「十五か十六くらいのときの話だよ。」
「そこには、学校とかはあったの?」
「そんなのはねえよ。教師みたいなのはいたけどな。」
「何人くらいいたの?」
「百人くらいかな。」
「有名人ばっか?」
「まあ、そうだったんだろうな。俺は、有名人ってのを知らねえから分からなかったけど。」
「まったく外には出られなかったんだ?」
「そうだよ。」
「自由な時間とかはあったの?」
「夕方、食事の後、自由になれる時間があってな、こうやって月を眺めてたんだよ。」
「月をねえ…」
「月って言うよりも。自分の運命を眺めていたんだろうな。」
「自分の運命?」
「一人になると、妙に寂しくなるんだよ。でもよ、なぜかその寂しさが友達なんだよ。その友達に会いたくなるんだよ。変な話だろう。」
「変だねえ。でも、なんとなく分かるよ。」
「俺はいったい何なんだって?いつも考えてたよ。人間のようだけど、人間ではない、コピー人間。」
「悩んだんだ。」
「いつも、何もない空しさがやってきてな。」
「何もない空しさ?」
「親も兄弟も無い空しさだな。根拠の無い存在って言うかな。」
「今でも?」
「ときどきはあるけど、もう無いよ。慣れっちまったんだな。」
「偉いなあ。」
「逆にプライドを持って生きてるよ。」
「プライド?」
「クローンの誇りってやつだな。」
「クローンの誇り?」
「俺は、普通じゃないところから生まれたんだという誇りだよ。屈せずに、こうやって生きているんだという誇りだよ。死なないで生きている誇りだよ。」
「ってことは、死ぬほど苦しんだってことか?」
「まあな。」
「そうっかぁ。兄貴も苦労したんだなあ。」
「別に苦労はしてないよ。単なる心の問題だよ。」
「そこんとこが、兄貴の凄いとこだなあ。」
「仕方ないことを、いくら考えても仕方ないだろう。」
「まあ、そうだけど。大菩薩を逃げたのは、いつなの?」
「二十の誕生日だったよ。」
「それ以来、極秘指名手配ってわけか。」
「そういうことだな。」
「大菩薩かあ…」
「俺たちはみんな、クローン人間の実験動物だったんだよ。」
「で、今でも頭脳警察に追われてるってわけだ。」
「そういうことだな。」
「捕まったらどうなるの?」
「さ〜〜あ、また、大菩薩かな。それとも…」
「それとも?」
「…処刑かな。」


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