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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第128回   センチメントールの風
姉さんの心は好奇心で、ぶんぶんぶんと子供のようになびいていた。
「あっ、またムササビだ!」
アニーは、ひょうひょうとした清楚な振る舞いで、中指を立てこめかみのやや上を押しながら返事をした。
「だいたい、このくらいの時間になると、山から飛んで下りて来るんですよ。」
ムササビは、取った葉を両手で真ん中で折りながら食べていた。
「わ〜〜、可愛い食べ方〜!」
「両手で食べてるんでしょう。」
「ええ、手を合わせて、お坊さんみたい。」
「そうなんですよ。」
「ムササビって、主に何を食べているんですか?」
「木の若葉や山桜や山つばきの花や、どんぐり等の実です。」
「わたし、今までムササビを誤解してました。」
「どういうふうにですか?」
「ムササビって、カエルとかを食べる、もっと獰猛(どうもう)な動物かと思っていました。」
「肉食の獰猛なやつかと?」
「ええ、そう思ってました。じゃ、なかったんですね。」
「みなさん、そう言いますね。姿かたちから来るんでしょうね。」
「つまり、見かけで判断してはいけないってことですね。」
「そういうことですね。」
「人間もそうですね。」
「そうですね。」
「どこからやって来るんですか?」
「山の上の大きな木の洞(うろ)に住んでいるんです。そこから毎日やって来ます。」
「いいなあ〜、そういうのって。御伽噺みたいで。」
「そうですね。」
「ムササビって、何の仲間なんですか?」
「リスの仲間です。」
「そう言えば、食べ方はリスですね。」
初秋のメントールの匂いのセンチメントールの風が、ひょ〜いひょいとひょひょいのほいと楽しそうに高野山の高原を、すすきを蹴っ飛ばしながら駆けていた。
姉さんは窓から、その風たちを親しげな目で見ていた。
「いいなあ〜、風小僧は。」
「風小僧ですか?」
「はい。風を見ると、楽しかった幼い頃を思い出すんですけど、どうしてなんでしょうね。」
「きっと、人間のDNAの中にある原風景なんではないでしょうか。心の原風景なんだと思います。」
「心の原風景。とってもロマンチックな言葉だわ。」
「そうですか。」
「アニーさんらしい言葉だわ。」
「そうですか?」
「アニーさんは、きっと心がロマンチックなんですね。」
「葛城さんこそ、風小僧だなんて。とってもロマンチストだわあ。」
「わたし、きっと、心がおてんばなんですよ。」
「心に余裕があるんですよ。」
「そうなのかなあ。」
「ほんとうに、おてんばだったんですか?」
「ええ。よく男の子を虐(いじ)めて、わたしの親が謝りに行っていました。」
「男の子をですか?」
「はい。だって男のくせに弱虫ばっかなんだもん。」
「弱虫は嫌いだったんですね?」
「そういうことでしょうね。」
「虐めの背後には、優しさがあることが多いんですよ。」
「えっ?」
「医者が病気を憎むように、その人が憎いのではなくって、背後にある病気が憎いんです。」
「背後にある病気?」
「だから、外科医は手術が出来るんです。病気が憎いから。病気をメスで虐めるんです。」
「…」
「つまり、虐めは、そのメスなんですよ。弱虫の背後にあるものが憎いんですよ。」
「弱虫の背後にあるもの…」
「怠惰な心とか、だらしない行動とか。」
「なあるほど。」
「今でも弱虫は嫌いなんですか?」
「今でも、意気地なしの男は嫌いですね。」
「わたしも、嫌いです。」
「男は、魂がヤザワしてなきゃ駄目よ。」
「やざわ?」
「ロックンローの矢沢よ!」
「矢沢の永ちゃんね。」
「成り上がりの根性がない男は男じゃないわ。」
「賛成〜〜〜!」
「ROCKIN' MY HEART!」
「ROCKIN' MY HEART!」
姉さんは、にこっと笑ってウインクをすると首を傾げた。
「ふふふ、おもしろいわ。」
「おもしろいですか?」
「なんとなく想像できますわ。」
「おてんばのこと?」
「ええ。」
「あちゃ〜〜〜ぁ。やっぱし。」
「わたしも、そういうふうになりたいなあ。」
乙女チックでセンチメントールの風が、姉さんの臭覚をくすぐった。姉さんは、鼻に人差し指を当てた。
「まいったなあ〜。」
福之助が目を開けた。
「姉さんが、まいることがあるんですかぁ?」
「なんだよ、おまえ。黙って寝てろ〜!」
「おやすみなさ〜〜い!」
福之助は、静かに目を閉じた。


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