20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第127回   ムササビ
高野山にアナウンスが流れた。

 < 暴走車 および暴徒は 高野山警察により確保されました >

アニーは天井を見ながら溜息をついた。
「あ〜〜、良かったぁ〜!」
きょん姉さんはテーブルの前に座って、トマトを眺めていた。
「高野山警察の封鎖も甘いねえ。ここまで突破されるなんて。」
「そうですね。」
テレビでは、暴動に関する同じニュースが流れていた。
姉さんはテレビを見た。
「いつまで続くんですかねえ、この暴動…」
「たぶん、明日までには落ち着きますよ。計画的な行動パターンではありませんよ、これは。」
「そうですね。だったら、猿狩り狙撃隊は出ないですね。」
「たぶん。」
「出たら、大変なことになりますね。」
「出ても、ゴム弾使用ですから。」
「そうですけど。」
「この様子では、出ませんよ。」
「そうですね。高野山には、普通の警察だけなんですか?」
「いいえ。忍者隊・月光という特殊部隊があります。」
「忍者隊・月光?」
「はい。」
「どういう部隊なんですか?」
「実は、私も見たことがないんです。」
「そうなんですか。」
「忍者隊って言うくらいですから、忍者みたいに秘密裏に行動するんじゃないでしょうか。」
「なんか、見てみたいなあ。」
「ここにいると、いつかは見れますよ。」
眠っている福之助の目が開いた。アニーはびっくりした。
「あれぇ?」
姉さんも福之助を見ていた。
「十分に一回、目を覚まして状況を確認しているんです。」
「あ〜、そうなんですか。」
「旧式なんです。」
福之助が答えた。
「姉さん、そりゃあないよ!」
言い終わると、目を閉じた。
「ああやって、人間に危害がないと、目を閉じるんです。」
「もし、あったらどうするんですか?」
「補助電源を使って起き上がります。」
「なるほどね。さすが、補助ロボット。」
「あまり頼りにはなりませんけどね。」
「そんなことありませんよ。」
「そうですか?」
「いるだけで、心強いですよ。」
「そうなのかなあ?」
「そうですよ。」
姉さんは、テーブルの上のトマトに目が行った。
「せっかくの新鮮なトマト。このトマトでも食べて寝ましょうか。」
「そうですね。」
「トマトを食べて寝ると、目覚めがいいんですよ。」
「ええ、そうなんですか。」
高野山に夜の冷気を帯びたベールがやってきて、風と会話を交わしていた。時は、どすこいどすこいと力強く流れていた。
アニーが窓を見た。
「風が強くなってきましたねえ。」
「そうですねえ。」
と言いながら、姉さんは窓際に歩み寄り、カーテンを少し開けて外を見た。
「なに、あれ!?」
「どうかしたんですか?」
「飛んだんですよ。何かが、木から木へと…」
「あ〜〜、ムササビですよ。」
「ムササビ?」
「この辺りには、ムササビが多く生息しているんです。日没から餌を求めて飛び回るんです。」
「ムササビ…」
「初めて見たんですか?」
「はい。」
「近くで見ると、目がクリクリして可愛いんですよ。」
「そぉうなんですか?」
「奥の院の参道に並ぶ杉の木には、たくさんいますよ。」
「奥の院の参道?」
「織田信長、豊臣秀吉、武田信玄、上杉謙信ら武将の供養塔があるところです。」
「どこにあるんですか?」
「この丘の向こうです。高野山を攻めた織田信長の供養塔もあるんですよ。」
「え〜〜〜!?」
「弘法大師の教えには、敵も味方もないんですよ。皆、同じ人間なんです。」
さきほどまでコーラスで歌っていた虫たちは、風の音に怯え黙っていた。雲が月の下を泳ぐように流れていた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 32722