「誰からだったの?お客さん?」 「そう。」 「案山子(かかし)の?」 「そう。」 「けっこう売れてるんだ?」 「まあね。」 「レンタル畑にさあ。」 「何?」 「レンタル畑に、バーベキューがあるといいんじゃない?」 「バーベキュー?」 「肉と、とりたての新鮮な野菜を一緒に焼けば、きっと美味しいわ。みんな喜ぶわ。」 「なあるほどねぇ。」 「だから、どこかにバーベキュー・エリアを作ればいいのよ。」 「いいね、それ。」 「でしょう。それに、とても健康的だわ。」 「さすが、蝶子ちゃん。」 「いいアイデアでしょう。」 「いいねえ〜。なあるほど〜。」 龍次は、腕を組んで考え始めた。 「バーベキューかあ…、そう言えば。」 「どうしたの?」 「昨日、事務所でねえ。」 「どうしたの?」 「久しぶりに皆でステーキ食べようということで、食材を持ち寄りビルの外階段の踊り場でパーティを開くことに決まってね。」 「それで?」 「豆炭に燃料を吹きかけ、さぁー、シュポッとライターで点火だぁー、とみんなの顔がきらきらした時…」 「どうしたの?」 龍次は誰かの物まねを始めた。 『君たち、ここで屋外パーティは禁止されているよ!』 「誰?」 「ビルの管理人。」 「あ〜らあら。それで中止?」 「中止は悔しいから、変更。」 「変更?」 「フライドチキンを誰かが買いに走ったの。」 「フライドチキン。」 「焼こうと思ってたトウモロコシを、皮つきのままレンジでチンしたんだよ。」 「窮余の策か。」 「そういうこと。」 「そのままチンしたの?」 「そのままだよ。皮つきのまま。」 「塩水に浸してから、チンすると美味しいのよ。」 「あ〜、そうか。なるほどぉ。」 「で、おいしかった?」 「千葉県冨里産だったらしいが、甘くてバカうま!」 「そ〜お。」 「全員の機嫌が治ったよ。」 「ちゃ〜〜んと、確認してからやらなきゃ。」 「そうなんだよなあ。」 「インテリは、そこが弱点ね。」 「えっ、どういうこと?」 「遠くばっかり見て、足元を見ない。」 「なあるほど。蝶子ちゃんは、ときどきいいことを言うねえ。」 「ときどき?」 「いやっ、失言。失礼!」 「まあ、いいわ。その通り。」 龍次は、思い出したように携帯電話を取り出した。 「これ見て。」 写真を見せた。蝶子は覗き込んだ。 「何、これ?」 「自宅に持ち帰るはめになったステーキ!」 「あ〜〜〜あ、あ!」 「暇だと、こういうことやっちゃうんだよなあ。」 「暇なの?」 「まあね。最近、仕事が減っちゃってるよ。」 「どこも同じなのねえ。」 「いや〜〜ぁ、今日は実に色んなことがあったなあ〜。」 「そうなの?」 「大菩薩で新赤軍に遭遇するし。」 「え〜〜〜、新赤軍に遭遇したの〜!?」
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