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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第124回   案山子
高野山にアナウンスが流れた。

 < 暴走車 および暴徒は 高野山警察により確保されました >

「かくほって何?」
「警察に捕まったんだよ。」
「よかったぁ〜!」
何かが倒れた音がした。
真由美は、お兄ちゃんの顔を見た。
「何かしら?」
「案山子(かかし)の立ってるところから聞こえてきたな。」
「案山子が風で倒れたのかしら?」
「そうだなあ。ちょっと見てくるよ。」
お兄ちゃんは出て行った。それから、すぐに戻ってきた。
「倒れてたぞ〜!」
案山子を持っていた。
部屋の壁に立てかけた。
「ちゃんと立てなきゃ駄目だな。」
「こわれたんじゃないの?」
「さ〜ぁ、どうかなあ?」
案山子の顔が土で汚れていた。
「あ〜あ可哀想に。ちゃんと吠えるかしら?」
「やってみるか。」
お兄ちゃんは、案山子の裏側を覗いた。
「おっ、テストってスイッチがあるぞ。これかも知れないなあ。」
スイッチを入れた。

 ウォ〜〜ォ〜〜ォ! ウォ〜〜ォ〜〜ォ!

音が大きかったので、慌ててスイッチを切った。
真由美は、耳を塞いでいた。
「あ〜〜〜、びっくりした!」
隣の部屋から母親が、大きな声で尋ねた。
「どうしたの、何今のは!?」
お兄ちゃんが謝った。
「ごめん、ごめん!案山子(かかし)の音のテストをしてたんだよ。」
「あ〜〜〜ぁ、びっくりしたわ。」
「ごめん、ごめん!」
真由美は、目を丸くしていた。
「お兄ちゃん、それだけしか、音はないの?」
「どうかなあ…、説明書がないからなあ。」
「紋ちゃんは、何もくれなかったよ。」
「そうか。しょうがないなぁ。」
「どうしたらいいんでしょう?」
お兄ちゃんは、案山子(かかし)の裏側のラベルを見た。
「あっ、ここに電話番号が書いてある。携帯の番号だ。」
「保土ヶ谷さんが作ってるの?」
「作ってるって聞いたことないなあ。見たこともないなあ。」
「そうだよねえ。」
「あそこの保土ヶ谷さんか、電話をかければ分かるよな。」
「そうだね。」
「ちょっとだけ電話してみるか?」
「電話代が、もったいないわぁ。」
「ちょっとだけだよ。声を聞くだけ。」
「お兄ちゃん、じゃあわたしがかけてあげる。」
「うん、どうして?」
「友達だから。」
「そうか。じゃあ、真由美がかけろ。」
「うん!」
真由美は、パソコンの脇の電話機を取った。小さな人差し指で、一つ一つ丁寧にプッシュボタンを押した。
「もしもし、保土ヶ谷さんですか?」
『はい、そうです。』
「保土ヶ谷さんに聞きたいことがあります。電話代がないので、そちらから電話してください。」
真由美ちゃんは、電話を切った。お兄ちゃんは、口を尖らせながら言った。
「お〜〜〜、さすが、ケチの真由美!」
「えへへ…」

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「世の中、仕事はないし、不景気ねえ。」
「社会があるから、仕事がある。んじゃなくって、仕事があるから、社会があるんだよ。」
「ふ〜〜ん。」
「だから、みんなで新しい仕事を作らないと、景気は良くならないんだよ。」
「さ〜〜すが、インテリ!」
「黙って待ってても、景気は良くならないの。頭を使わないとね。」
「難しいんだねえ。」
「みんなで考えればいいんだよ。」
「みんなで…」
「さ〜〜あ、今日は帰ったら、おいしいオハギでも食べながら、焼酎でも飲むか〜!」
「え〜〜〜〜っ!おはぎを食べながら、焼酎を飲むの〜!?」
「そうだよ。おかしいかなあ?」
「おかしいよ〜。」
「いつも、こういうときにはオハギを食べて、焼酎を飲んで、邪を払うんだよ。」
「おいしいの?」
「おいしいよ。焼酎を飲むと、オハギがピリッとして。」
「ふ〜〜〜ん?」
「両極のを食べると、邪が払われるんだよ。」
「そうなの〜?」
突然、龍次の携帯電話が鳴った。
「誰だろう?」
龍次は携帯電話を取った。
「…知らない番号だなあ。お客からかな?」
耳に当てた。少女の声がした。
『もしもし、保土ヶ谷さんですか?』
「はい、そうです。」
『保土ヶ谷さんに聞きたいことがあります。電話代がないので、そちらから電話してください。』
電話は切れた。
「あらあら切れちゃった。」
蝶子が尋ねた。
「誰からなの?」
「お客さんかな?」
「切れたの?」
「しょうがないなあ、かけてみるか。」
龍次は、かかってきた電話番号にダイアルした。
『はい。伊集院です!』
「あっ、伊集院さん。ひょっとしたら、案山子のことですか?」
『そうです。』
「何かあったんですか?」
『あなたは、高野山の保土ヶ谷ですか?』
「高野山?違いますよ。」
『どこの保土ヶ谷さんですか?』
「横浜の保土ヶ谷です。」
『よこはまって、どこにあるんですか?』
「東京の近くです」
『そうですか。あなたは、案山子を売っている保土ヶ谷さんなんですね。』
「はい、そうです。」
『じゃあ、案山子のことで質問をしてもいいですか?』
「いいですよ。」
『案山子の音を変えたいんですけど、どうしたらいいんですか?』
「音を変えたい?説明書とかないのかな?」
『ありません。』
「じゃあ、パソコンはありますか?」
『あります、あります!』
「じゃあ、パソコンの分かる人はいるかな?」
『います、います!お兄ちゃんが隣にいます!」
「お兄ちゃんは、小学生かな?」
『高校生です。』
「じゃあ、変わってくれるかな?」
『は〜〜い、分かりました〜!』
少女の甲高い声が聞こえていた。
『お兄ちゃん、パソコンだって、代わって!』



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