高野山にアナウンスが流れた。
< 暴走車 および暴徒は 高野山警察により確保されました >
「かくほって何?」 「警察に捕まったんだよ。」 「よかったぁ〜!」 何かが倒れた音がした。 真由美は、お兄ちゃんの顔を見た。 「何かしら?」 「案山子(かかし)の立ってるところから聞こえてきたな。」 「案山子が風で倒れたのかしら?」 「そうだなあ。ちょっと見てくるよ。」 お兄ちゃんは出て行った。それから、すぐに戻ってきた。 「倒れてたぞ〜!」 案山子を持っていた。 部屋の壁に立てかけた。 「ちゃんと立てなきゃ駄目だな。」 「こわれたんじゃないの?」 「さ〜ぁ、どうかなあ?」 案山子の顔が土で汚れていた。 「あ〜あ可哀想に。ちゃんと吠えるかしら?」 「やってみるか。」 お兄ちゃんは、案山子の裏側を覗いた。 「おっ、テストってスイッチがあるぞ。これかも知れないなあ。」 スイッチを入れた。
ウォ〜〜ォ〜〜ォ! ウォ〜〜ォ〜〜ォ!
音が大きかったので、慌ててスイッチを切った。 真由美は、耳を塞いでいた。 「あ〜〜〜、びっくりした!」 隣の部屋から母親が、大きな声で尋ねた。 「どうしたの、何今のは!?」 お兄ちゃんが謝った。 「ごめん、ごめん!案山子(かかし)の音のテストをしてたんだよ。」 「あ〜〜〜ぁ、びっくりしたわ。」 「ごめん、ごめん!」 真由美は、目を丸くしていた。 「お兄ちゃん、それだけしか、音はないの?」 「どうかなあ…、説明書がないからなあ。」 「紋ちゃんは、何もくれなかったよ。」 「そうか。しょうがないなぁ。」 「どうしたらいいんでしょう?」 お兄ちゃんは、案山子(かかし)の裏側のラベルを見た。 「あっ、ここに電話番号が書いてある。携帯の番号だ。」 「保土ヶ谷さんが作ってるの?」 「作ってるって聞いたことないなあ。見たこともないなあ。」 「そうだよねえ。」 「あそこの保土ヶ谷さんか、電話をかければ分かるよな。」 「そうだね。」 「ちょっとだけ電話してみるか?」 「電話代が、もったいないわぁ。」 「ちょっとだけだよ。声を聞くだけ。」 「お兄ちゃん、じゃあわたしがかけてあげる。」 「うん、どうして?」 「友達だから。」 「そうか。じゃあ、真由美がかけろ。」 「うん!」 真由美は、パソコンの脇の電話機を取った。小さな人差し指で、一つ一つ丁寧にプッシュボタンを押した。 「もしもし、保土ヶ谷さんですか?」 『はい、そうです。』 「保土ヶ谷さんに聞きたいことがあります。電話代がないので、そちらから電話してください。」 真由美ちゃんは、電話を切った。お兄ちゃんは、口を尖らせながら言った。 「お〜〜〜、さすが、ケチの真由美!」 「えへへ…」
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「世の中、仕事はないし、不景気ねえ。」 「社会があるから、仕事がある。んじゃなくって、仕事があるから、社会があるんだよ。」 「ふ〜〜ん。」 「だから、みんなで新しい仕事を作らないと、景気は良くならないんだよ。」 「さ〜〜すが、インテリ!」 「黙って待ってても、景気は良くならないの。頭を使わないとね。」 「難しいんだねえ。」 「みんなで考えればいいんだよ。」 「みんなで…」 「さ〜〜あ、今日は帰ったら、おいしいオハギでも食べながら、焼酎でも飲むか〜!」 「え〜〜〜〜っ!おはぎを食べながら、焼酎を飲むの〜!?」 「そうだよ。おかしいかなあ?」 「おかしいよ〜。」 「いつも、こういうときにはオハギを食べて、焼酎を飲んで、邪を払うんだよ。」 「おいしいの?」 「おいしいよ。焼酎を飲むと、オハギがピリッとして。」 「ふ〜〜〜ん?」 「両極のを食べると、邪が払われるんだよ。」 「そうなの〜?」 突然、龍次の携帯電話が鳴った。 「誰だろう?」 龍次は携帯電話を取った。 「…知らない番号だなあ。お客からかな?」 耳に当てた。少女の声がした。 『もしもし、保土ヶ谷さんですか?』 「はい、そうです。」 『保土ヶ谷さんに聞きたいことがあります。電話代がないので、そちらから電話してください。』 電話は切れた。 「あらあら切れちゃった。」 蝶子が尋ねた。 「誰からなの?」 「お客さんかな?」 「切れたの?」 「しょうがないなあ、かけてみるか。」 龍次は、かかってきた電話番号にダイアルした。 『はい。伊集院です!』 「あっ、伊集院さん。ひょっとしたら、案山子のことですか?」 『そうです。』 「何かあったんですか?」 『あなたは、高野山の保土ヶ谷ですか?』 「高野山?違いますよ。」 『どこの保土ヶ谷さんですか?』 「横浜の保土ヶ谷です。」 『よこはまって、どこにあるんですか?』 「東京の近くです」 『そうですか。あなたは、案山子を売っている保土ヶ谷さんなんですね。』 「はい、そうです。」 『じゃあ、案山子のことで質問をしてもいいですか?』 「いいですよ。」 『案山子の音を変えたいんですけど、どうしたらいいんですか?』 「音を変えたい?説明書とかないのかな?」 『ありません。』 「じゃあ、パソコンはありますか?」 『あります、あります!』 「じゃあ、パソコンの分かる人はいるかな?」 『います、います!お兄ちゃんが隣にいます!」 「お兄ちゃんは、小学生かな?」 『高校生です。』 「じゃあ、変わってくれるかな?」 『は〜〜い、分かりました〜!』 少女の甲高い声が聞こえていた。 『お兄ちゃん、パソコンだって、代わって!』
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