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作品名:ニート革命軍 作者:毬藻

第123回   ムーンウォーカー
道の脇の土手の上に、修験道(しゅげんどう)の服装をした者が立っていた。
「待ちたまえ!」
男の声だった。
その男は、マイケルジャクソンのような軽い足取りで、音もなく猫のように土手を降りてきた。
警官の前まで進むと、ムーンウォーカーのように止まった。
警官の一人が、その修験者(しゅげんじゃ)風の男に向かって声を発した。
「マイケル聖(ひじり)!」
他の三人の警官も、まるで訓練されたような同様な声を発した。
「マイケル聖(ひじり)!」
マイケル聖(ひじり)はターンして、暴徒に顔を向けていた。
「ここは、聖なる場所ですぞ!」
「聖なる場所?」
「世の中を恨んでも、救われませんぞ。」
「うるせ〜〜、くそ野郎!」
「あなた自身を変えなければ、救われませんぞ。」
「これ以上がたがた言ってると、このじじいを、ぶっ殺すぞ!」
「人を恨んでも、魂は救われませんぞ。」
「うるせ〜〜!」
「猿には、人間の言葉は通じないみたいですな…」
男は、猿みたいに興奮していた。
警官の一人がマイケルに言った。
「マイケル聖(ひじり)、精神安定スプレーを使いましょうか?人間に戻るかも知れません。」
「この男には無駄だよ。目が人間の目ではない。欲望だけの獣の目だ。」
マイケル聖(ひじり)の言葉に、警官は黙った。
「ノウマクサマンダバザラダンカン!」
一人の警官が呟いた。
「不動明王の真言…」
修験者は、忍者のように両手で印を結ぶと、猿のような男に向かって天にも届くような奇声を発した。
「きぇ〜〜〜ぃ!」
猿のような男は、ピタッと動かなくなった。急いで、警官たちは動かなくなった猿を確保した。
警官の一人が、マイケル聖(ひじり)の前で、深々と頭を下げた。
「不動金縛り法!お見事です!恐れ入りました!」
「余計なことをしたかな?」
「いいえ、とんでもない、助かりました!」
新たなパトカーがやってきた。
「じゃあ、わたしはこれで!」
「マイケル聖(ひじり)、ありがとうございます!」
「マイケルでいいよ。」
「じゃあ、マイケル、気をつけて。」
「じゃあ、アッバ!」
マイケルが一歩踏み出したときに、何かを落とした。警官が気付いた。
「何か落としましたよ。」
マイケルは立ち止まり、振り返ると足元を見た。
「おっとっと、大切なものを!」
「何ですか、それ?」
「mp3プレーヤーだよ。わたしの魂のマイケルジャクソンが入っているんだよ。」
「ああ〜、それはそれは。」
「じゃあ、アッバ!」
マイケルは、イヤホンを両耳に当てると、ムーンウォーカーの足取りで、人気のない山に向かって歩き出した。高野山の野原のステージで、月明かりだけがマイケルを照らしていた。風が無常を歌い、ススキが騒いでいた。
遠くの方で、猿狩り小次郎が旋回していた。


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