照明に照らされたニート革命軍・人間村の看板の下には、もう白髪の老人の姿はなかった。 ショーケンは左右の道の彼方を見た。 「おっかしいなあ。今ここにいたんだけどなあ。」 アキラがやって来た。 「兄貴〜、何やってんの?」 「ここになあ、白髪のおじさんがいたんだよ。いなくなっちゃったよ。」 アキラも、左右の道を見た。 「帰ったんじゃないの?」 「そうなのかなあ…」 「じゃあ、川にでも落ちたんじゃない?」 「まさか。」 ショーケンは川を見た。聞こえてきたのは、せせらぎの音と虫の声だけだった。 「そんなに早く居なくなるわけがないんだけどなあ…」 近くの木の裏側から、老人が出てきた。 「兄貴、あそこにいるよ。」 老人は、ズボンのチャックを閉めていた。 「な〜〜んだ、小便か。」 遠くからサイレンの音が近づいていた。赤色灯を回転させ点滅させて近づいていた。 「兄貴、パトカーだよ。」 「こっちに来るみたいだなあ。」 大きな爆音が近づいてきた。暴走車だった。 「兄貴、暴走車だ!」 二人は危険を感じ、道の脇の小高い土手に登った。 道の反対側からも、パトカーがやってきて、二人の前をサイレンを鳴らし、赤色灯を回転させながら通り過ぎて行った。暴走車は、パトカーに挟まれ、止まった。パトカーのライトに老人が映った。 暴走車は、老人が歩いてる場所で止まった。老人は、びっくりして立ち止まった。 まるで、暴走車から猿の形相で猿のような奇声を発しながら、男が出てきた。そして、老人の腕を掴んだ。 追って来たパトカーは、暴走車の手前で止まり、もう一台のパトカーも止まった。警官が出てきた。パトカーには、高野山警察と書いてあった。 警官達が警棒を持って男に近づくと、男は刃物を取り出した。サバイバルナイフだった。男は叫んだ。 「近づくと、このじじいを殺すぞ!」 男は理性のない猿のように、警官を眼光鋭く睨み、叫んでいた。 腰を抜かしたのか、老人はその場にうずくまった。 警官は、飼育員が動物に接するような調子で問いかけた。 「ナイフを捨てなさい。そこにいるのは老人ですよ。可哀想じゃないですか。」 「可哀想〜?」 心のすさんだ男には意味が分からなかった。 「弱い者にたいしての、思いやりの気持ちはないのか?」 「おもいやり?」 心の病んだ男には、その言葉が理解できなかった。彼岸花を踏みつけていた。 「弱いものをいたわる気持ちはないのか?」 「そんなものは、ねえ〜!」 「おまえには、愛はないのか?」 「猿には、そんなものは、ねえ〜ぇ!」 その様子を、ショーケンとアキラは見ていた。 「猿に運転免許を与えるから、こういうことになるんだよ。」 「そういうことだよな。」 「猿に科学文明は刃物なんだよ。危険なんだよ。」 警官の一人が他の警官に命じた。 「しょうがない、忍者隊・月光を呼ぶか。」 他の警官は即座に答えた。 「了解!」 高野山の風は、いつものように吹いていた。
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